無題 第2部 38
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顔を離すと、先程と同じような静かな瞳で、アキラは緒方を見詰めていた。
その瞳にどんな意味がこめられているのか、緒方が計りきれずにいるまま、アキラはゆっくりと
瞼を閉じた。それから、するりと緒方の腕の中から抜け出し、呆然としたままの緒方を置いて、
部屋を出て行った。
「…アキラ…!」
彼の心の変化を追い切れずに、緒方はただ、彼の姿を追う。
だが彼は緒方の呼びかけには応えず、脱ぎ散らかされた衣服の中から自分の下着を拾い上げ、
そのまま洗面所へと向かった。
ドアを開け放したまま、アキラは、まだ乾ききってはいないであろう制服を、黙々と身につけていく。
「アキラ…」
きっちりと詰め襟の上まで止めあげて、やっと彼は緒方を振り返った。
「アキラ…!」
もう一度、先程より強く彼の名を呼び、両腕を掴まえて、その真意を尋ねるように顔を覗き込んだ。
だが、アキラは答えず、ただ緒方の顔を見上げて、首を振った。
見上げるアキラの目に涙が浮かんでいた。
「また…来ても、いいですか…?」
否、などとは答えられる筈がなかった。
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