少年王アキラ 38
(38)
馬場内に最終レース終了を知らせる鐘が鳴り響く。
「…くッ!」
アキラ王は悔しげに唇をかみ締めた。万馬券ハンターの名を以ってしても第1レースの
負けを取り戻す事が出来なかったのだ。
「勝負、ありましたな」
声に押さえきれない嬉しさを滲ませながら、オガタンが告げた。
実はオガタンは故郷のオガタン星では名の知れた勝負師だったのだが、色事の絡んだ勝負
で身持ちを崩し、逃げる様に星を後にして以来秘伝の薬を片手に流しの無免許医として
放浪していたところを前王の行洋に拾われた過去を持っていた。
しかし、そんな若きオガタンの苦い青春などアキラ王は知る由もない。
久々の賭け事に忘れていたはずの勝負師の血が滾り、気分が高揚していたオガタンの口は
滑らかに言葉を紡いで行く。
「確かにアキラ王はよくやりました。だが最初のレースを落とした時、ツキは既にこちら
に来ていた。それに気付かなかったのがあなたの敗因だ。運気の流れまで読んでこそ、
一流のギャンブラー……つまり、あなたは勝負師としてはまだまだオレの下だ」
――そして今夜は文字通り、その身がオレの下だ!
心の中でガッツポーズを取るオガタンは、勝利に酔いしれるあまり自分が大きな過ちを
犯してしまった事に気付いていなかった。
俯いて唇を噛んでいた少年王の肩が小刻みに震えている。次の瞬間―
「黙れ、オガタン!!」
激しい音を立ててアキラ王が椅子から立ち上がった。綺麗に切り揃えられた美しい黒髪が
乱れ、その前髪の間から覗く瞳はギラギラとした光を宿していた。
|