誘惑 第三部 38
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ああ、結局やっちまったよ…、と軽い自己嫌悪を感じながら、ヒカルはもう一度シャワーを浴びた。
無造作に服を着込み、髪を拭きながらベッドに戻る。
そっとベッドの端に腰掛けると、丸くなってまどろんでいたアキラがヒカルの気配を感じて目を開け、
ヒカルを見て微笑んだ。
「帰るよ。」
「うん。」
幸福そうな微笑みに、本当は引き止めて欲しいと思ってるのは自分の方なのかもしれない、と思う。
手を伸ばして、髪を軽く梳くと、心地良さげにアキラが目を閉じる。手を放せなくなってしまって、その
ままアキラの頭を撫で続けていると、アキラがクスクスと笑い出した。
「どうした?やっぱり泊まってく?」
からかうような声でそう言って、目を開けてヒカルを見上げる。言われてヒカルがムッとしたのを面白
がるように笑っている。
「…帰るっ!」
ヒカルは憮然として立ち上がり、乱暴にリュックをしょって玄関へと向かう。
「あ、」
そして、ふと心配になってもう一度アキラに確認するように訊ねた。
「明日、大丈夫だよな?」
「大丈夫だよ。」
「棋院まで、一人で来れるか?」
「…当たり前だろ。」
「そうかよ?甘ったれの塔矢アキラくんはお迎えがなきゃ行けないかなーっと思ったんだけどな。」
「じゃあキミが迎えにきてくれるのか?へーえ、嬉しいなあ。」
「甘ったれんなよ!バカヤローッ!」
寝ているアキラに向かって、あっかんべーをして、ヒカルはアキラの部屋を出て行った。
後ろでアキラが可笑しそうに笑っていた。
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