平安幻想異聞録-異聞- 38
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いつも佐為の方にばかり話しかけている女房達が、今日はヒカルにも口々に
声をかけ、いたわりの様子を見せる。
いったいどういう風の吹き回しかとおもって見れば、やはり、
ヒカルと佐為の顔を見に現れたあかりの君の言葉がなぞ解きをしてくれた。
「佐為の君が風邪を召して休んでいらっしゃるというのは表向きのこと。
実はヒカルにつきっきりで看病してたからお休みなのだって事は、
宮中の女房なら、もう誰もが知ってるうわさ話ですもの。
で、憧れの佐為の君に、内裏に参上いただくには、ヒカルの健康維持が、
そりゃあ大事なわけよ。みんな佐為様目当てにヒカルの事、心配してるわけ!」
「えーー、なんだよ、それ〜〜」
あかりの無下な言葉に、ヒカルは文句を言った。
が、佐為とともに歩き出そうとしたヒカルを、あかりの君が引き止めて、
そのヒカルの袖のなかに、宮中でも上級の女官しか口にに出来ないような菓子や
食べ物の包みを押し込んだところを見ると、何やら彼女なりに、
ヒカルに対しては思うところはあるようだ。
佐為はそんなふたりを微笑ましく見ながらも、ヒカルをせかす。
まさか、内裏から大内裏への道中で、こんなにあちこち道草を食う羽目に
なるとは思わなかった。
予定の退出の刻限を少々過ぎてしまっている。
佐為がヒカルを伴い、急ぎ足に大内裏から出ようとした時だった。
渡り廊下の向こうから、数人のとりまきを連れて歩いてきたのは
座間長房と菅原顕忠。
「これはこれは、佐為の君。 風邪でふせっておられたらしいが、
もうお加減はよいのですかな?」
すぐ後ろで、ヒカルが体を固くこわばらせるのがわかった。
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