Shangri-La第2章 38 - 40
(38)
「ううん……、今は、このまま…」
アキラはそう言うと、ヒカルの首筋に顔を埋めた。
ここは、確かにヒカルの匂いがいっぱいある。
確かめたくて、ゆるゆると首を振って擦りついた。
背中からヒカルの腕がアキラを包み、その手が髪を撫でる。
アキラは目を閉じて、全てをヒカルに預けた。
「塔矢さぁ…、やっぱ風邪じゃねぇ?」
「え?」
「声つらそう。大丈夫かよ?昨日は声、普通だったのにな?」
昨日は二人揃って芹澤の研究会に出ていたが
棋院内で不用意に会話をしないようにしているため
昨日二人が交した会話は挨拶程度だった。
「大丈夫……風邪だったらキスなんかしないよ。
うつっちゃったら、キミが困るだろ?」
―――確かに。今ヒカルのスケジュールは目一杯埋められている。
風邪でダウンする暇などある筈もないのだ。
でも、それなら何故ここまで声が違うのか…?
ヒカルは思うまま、その疑問を口にした。
(39)
「うーん、昨日、羽目外しすぎちゃったかな…?」
アキラは暫く昨晩の事を思い巡らせ、とりあえず無難な答えを返した。
こんなことなら、昨日はさっさと帰ってくれば良かった。
「へぇ…、何したの?塔矢が羽目外すって、想像つかねぇー!」
「――悪かったね。一人で居ると、いろいろあるんだ」
アキラは少しだけ身体を起こして、ヒカルを睨んだ。
いくら眼光鋭く睨みつけても、口を尖らせていては
単に拗ねているだけとしか思えない。
ヒカルはニヤニヤと笑いを浮かべ、両手でアキラの頬を挟んだ。
「ふぅ〜ん、淋しかったんだ?構って欲しかった?」
別に、とぶっきらぼうに答えてアキラは視線を逸らした。
アキラの気持ちは推し計るに容易い。
ヒカルは口元に含み笑いを浮かべながら
逃げようとするアキラをヒカルががっちり抱き締めた。
「ちょっ…進藤?何?」
「アキラちゃん、淋ちかったんだー。そっかー。
だから抱っこちて欲ちかったんだー?」
ヒカルはぽんぽんとアキラの頭を撫でてやりながら
わざと子供をあやすような口調で、その様子を窺った。
アキラはヒカルを詰りながら、身を捩って逃げようとしている。
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ヒカルは更に、アキラに頬擦りを始めた。
「アキラちゃんは、ほっぺたも大ちゅきだもんなー?
ほっぺむにむに出来て、嬉ちいなー。なぁ?」
「しっ…進藤っ!いい加減に…」
ふっ、とヒカルがアキラを放したので
急に解放されたアキラは、続ける言葉に詰まった。
「塔矢、降りて」
ヒカルの意図が分からず、アキラはただヒカルを見ていた。
「降りろよ、早く」
あ、ごめん、と一言謝って、アキラはヒカルの上から退いた。
ヒカルは座椅子に座り直して深く息を吐き、両膝を立てた。
アキラを見ると、不安に瞳を揺らし、ヒカルとも微妙に距離を置いて
息を飲み、じっとヒカルを見ている。
「塔矢、こっち来て」
ヒカルはその神妙な様子に吹きだしそうになるのを
ぐっと噛みしめてから、出来るだけ優しく声をかけた。
「なに…?」
「こっち、ここ」
ヒカルが自分の両脚の間にあいた空間を示すと、
アキラは安堵した様子でそこに収まると、ヒカルに寄りかかった。
ヒカルの手がそっとアキラの髪を弄り、その動きに合わせて
ふわり、ふわりと微かにヒカルの香りが漂う。
ヒカルにされるまま、アキラはうっとりとしていた。
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