誘惑 第三部 39


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朝、少し心配だったが、電話をするのはやめた。
随分と早めに棋院に着いてしまって、そわそわしながらアキラが来るのを待った。
周囲のざわめきを感じて振り返るとアキラがいた。アキラはちらっとヒカルを横目で見て小さく笑った。
ドキン、と、心臓が一瞬止まりそうになった。
別れてから半日も経っていないのに、つい昨日もずっと抱き合っていたのに、それでもその姿を見た
だけで胸が高鳴るのを抑えきれない。
今日の塔矢は、でも、昨日の塔矢とは別人みたいだ。
昨日の塔矢は、甘えて、拗ねて、帰っちゃやだとか言ってたくせに、今日のあいつと来たら。
余裕のある落ち着いた動作。自分の登場によってもたらされたざわめきや、ちらちらと盗み見る視線
をものともしない、周りを圧倒するようなエネルギーに溢れている。
誰かが彼のそんな姿を見て、ふう、と溜息をついた。
ヒカルはそんな様子を内心誇らしげに見ていた。
ああ、やっぱり、塔矢は綺麗だ。本当に綺麗だ。あいつはなんて綺麗なんだろう。あんまり綺麗で、輝
かしくて、眩しくて、見るたびオレは見惚れてしまう。でも、あいつが綺麗なのは、カオとか、見た目とか
だけじゃなく、あいつの真剣さが、あいつの持ってるエネルギーが強くて、眩しいからだ。あいつの周り
は、空気だって普通とは違うみたいだ。どんなに沢山の人がいたって、あいつ一人が光り輝いている
ように見えるから、オレはいつだってすぐにあいつを見つけられる。



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