初めての体験 39 - 41


(39)
 「ん・・・はあ・・・」
ヒカルの息が荒くなった。顔は涙と汗でぐちゃぐちゃだ。全身が朱に染まり、
その姿は息を飲むほど色っぽい。
「あぁん」
白川が指を引き抜いた。ヒカルは口をパクパクさせて、息をしている。
「し・・・進藤君・・・」
白川は上擦った声を上げ、ヒカルの中に一気に押し入った。
「あ―――――――――――っ!」
先ほどまでとは打って変わった激しさで、白川はヒカルを責めた。ヒカルの体が
テーブルの上で、がくがくと揺れた。
「あ・・・あん・・・ん・・・ひぃ・・・あぁ――――」
ヒカルは大きく体をふるわせ、そのまま意識を失った。と、同時に体の中に
熱いものが放たれた。



 白川・・・外柔内剛。人は見かけによらないの典型。

 ヒカルは手帳にメモ書きをして閉じた。そして、傍らにいるアキラに声をかけた。
「なぁ・・・塔矢・・・この間の写真・・・」
「写真って何のこと・・・?」
アキラが白々しくとぼけた。アキラはきっと口を割らないだろう。
「・・・なんでもねえ・・・」
写真のことを皆に訊ねて回りたい気もしたが、藪蛇になりそうなのでやめた。
『白川先生に詳しいこと聞いときゃ良かったぜ・・・』
ヒカルは大きく溜息をついた。

 「ふう・・・写真を進藤に見られたのは失敗だったな・・・」
隠し場所をかえた写真を取り出しながら、アキラは呟いた。
「進藤を縛るなんて可哀想で、できないからなぁ・・・」
そっくりさんの写真で我慢しよう・・・。
「でも『・・・・・・』と『・・・・・・』は見つからなかったからいいか・・・」
念のため、写真とは別に置いてある『・・・・・・』と『・・・・・・』の隠し場所に
アキラはチラリと視線をやった。何だか体が疼いてきた。
「新作希望のメールを出しておくか・・・」
アキラはパソコンを立ち上げた。


<終>


(40)
 ヒカルは地方のイベントに来ていた。今回、棋院から派遣された仕事はそこで指導碁を
行うことだった。本当は、適当な理由をつけてさぼりたかった。しかし、ヒカルとてプロ
の棋士…我が儘は言えなかった。ヒカルには手合いをさぼり続けた前科もある。これ以上
睨まれるのはゴメンだ。佐為がいれば、この退屈そうな仕事も楽しめただろうに…。
 「あーあ…せめて塔矢が一緒だったら…」
溜息をつきながら、席に着いた。もう客達は座って、談笑しながらヒカルを待っていた。
「よろしくお願いします。」
と、顔を上げて驚いた。目の前にいる二人の男性の顔に、見覚えがあったからだ。
「あ…あのお兄さん達…」
ヒカルは言葉を続けることが出来なかった。この二人は知り合いだったのか…。
あの後、桑原とは何もなかったのだろうか…?桑原の性癖をヒカルは身をもって知っている。
無事ですむとは思えない。しかし、いくら桑原でも、一般人に手をだすだろうか…?


(41)
 固まってしまったヒカルに嘉威が声をかけた。
「始めないんですか?」
ハッとヒカルは我に返り、慌てて碁石を手にとった。嘉威と俊彦の前にある盤に交互に
碁石を置いていく。子供といえどもヒカルはやはりプロ、嘉威達ではいくら石を置いても
太刀打ち出来ない。
 ヒカルが一手一手に解説をしていく。二人は、ふんふんと頷きながら真剣に聞いている。

「進藤プロ…オレ達…じいさんにやられっちゃったよ…」
指導碁が終わった後、突然、ぽつりと俊彦が呟いた。ヒカルはやっぱり…と思った。俊彦がどういう経緯で
桑原と関係したのかはわからないが、嘉威の方はだいたい見当がつく。
「オレ、あの時、あんたが何であんなに瞬きしているのかわからなかったけど…あれって
 教えてくれていたんだな…」
ありがとう…と、嘉威が小さく礼を言った。
「あんたも同じ目にあったんだ?」



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