平安幻想異聞録-異聞-<外伝> 39 - 42
(39)
(まぁ、いいか)
と、ヒカルは自分がすでに、小さく声を上げ始めているのを感じながら考える。
(伊角さん、そうとう酔っぱらってるみたいだし。明日になったら、こんなこと
したの忘れちゃってるかも。覚えてても……、酒の上でのちょっとした間違いっ
てことで、笑ってすませちゃえばいいや)
どちらにしても、流され始めてしまった自分の体は、最後まで行きつかないと承知
しないに違いない。
(それに、伊角さん。優しいし)
ヒカルは、伊角の首に腕をからめて引き寄せた。伊角の黒い瞳が、酔いと肉欲とで
滴りそうに潤んでいる。
その伊角の頬に、ヒカルは進んで口付けをした。
すぐそばの部屋で、いびきをかいて酔いつぶれている者たちが目を覚ましたらどう
しようかとも考えたが、そんなことはすぐに、久しぶりの情交に溺れる頭の中から
消し飛んでしまう。
互いの息が絡まって、次々と夜気に溶けた。
伊角が、ヒカルの敏感な脇腹に優しく歯を立てながら、下へと愛撫の場所を移して
いく。
口で、指貫の腰紐をほどいておろすと、布の中から現れた少年の柔らかな太腿の
内側を吸い立てた。ヒカルが、喘ぐ。
「…はっ……いす…さん」
「近衛のここは、ネコヤナギの木の芽みたいにすべすべしてる……」
そう言って、内股に嬉しそうにほお擦りする伊角の息が、ヒカルの半立ちになった
中心にかかった。伊角の手が、ヒカルの足を松葉に広げる。そして、その奥津城に
指でさぐりを入れてきた。
この二年、佐為しか触れたことのなかったそこに、男の指が飲み込まれる。
「ん…ん、」
久しぶりに感じる異物感に、ヒカルのそこが、抵抗するようにギュッと伊角の指先を
食い締めた。
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ヒカルが受け入れ慣れていた指とは、ぜんぜん形が違うのがそれだけでわかった。
それが、たどたどしく、熱くなりかけたヒカルの内壁を辿り、少しずつ、迷いながら
奥へと入ってくる。伊角にとっては、二年ぶりに触れるヒカルの体、男の体である
から不安なのだということが、ヒカルにも伝わってきた。
二年前のあの時も、伊角は優しすぎるぐらいに優しかったが。
中の指先が、ヒカルの敏感な神経が収束している場所を押した。
伊角の首に回されたヒカルの腕が反射的にびくりと動く。
その反応に安心したのか、伊角が最初に差し込んでいた人差指に中指をそえてきた。
「い…、あ、ぁ」
二本の指が、男根を抜き差しするように、ゆっくりと出し入れされ始める。
「は……、ぁ……、ぁ……」
快感はおおきなうねりになって、乾いていたヒカルの体中に染み渡っていった。
それは砂地が、止めどもなく水を吸い込む感じにしている。
中を擦る動きが徐々に、小刻みに早くなってきた。
「ぁ、あ、ふぁ…、は……っ、ぁ、ぁ…」
伊角は、唇でヒカルの下腹部を愛撫しながら、挿入した指を、壁を抉るように
わずかに曲げた。
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「ぁ! いぁ! あっ! あっ!」
ヒカルは、伊角の頭を引き寄せるように抱きしめていた手を解き、いつもの癖で、
口に含むものを探し始めた。脱ぎ捨てられ、下に敷かれたヒカル自身の狩衣の袖を
探り当てて、それを奥歯に噛みしめる。
「ふんんんっ、んんっ、っっ、んっ」
もう耐えられない。
伊角の愛戯は決してうまいものではないのに、体の方が暴走したように伊角の
手管に応えていた。
それが、ここしばらく受け身の閨事から遠ざかっていたヒカルの身体が、いかに
それを渇望していたかを証明していた。
もっと熱くて太くて固いものを、と体がねだった。
指じゃ物足りない。伊角さん自身の槍で奥をついて、中を押し広げて嬲って欲しい。
伊角の指が、ヒカルの狭道を押し広げるかのように、少し開かれて、その曲げられた
固い指先が、ぬめる腸壁を押しては引いてゆく。
「んんんっ、んぁんっ、んっ、ん――っ!」
あまりに自分の身体が過敏になっていて、このまま本物の伊角を受け入れる前に
ヒカルだけ最後まで達してしまいうそうだった。それを体が求めていた。
指でいい。せめてもう一本欲しかった。もう一本指を足して、中をいっぱいにして
欲しい。
そうしたら、イケるのに。
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ヒカルの秘腔の中がうごめいて、伊角に与えられる至高の悦楽を少しも逃すまいと、
その人の指をきつく包み込む。
伊角が上体を起こし、指を引き抜いた。喪失感に、ヒカルの体が震えた。
いよいよ欲しかったものが貰えるのかと、足を開いてその時を待つ。
伊角の強い力が、ヒカルの肩を床に押し付けるように押さえ込み、火箸のように
熱い尖端が、ヒカルのそこにそえられた。
が、その時、肩に掛かっていた伊角の手の力がゆるんだ。
どうしたんだろうと思って男の顔を見上げると、伊角は自分で驚いたような、
茫然とした顔をして、ヒカルを見下ろしていた。
「ごめん」
「え?」
「何やってるんだ、俺は……!」
伊角は、ほとんど脱がされて袖に引っかかっている程度だったヒカルの単衣を、
あらためてヒカルに着せると、自分も慌てたように着衣を整えてしまう。
単衣を直されたものの、指貫は下げられたままで、単衣の裾から、ヒカルの太腿と
立ち上がったままの中心が見えていた。
伊角はその白い内股に残る自身の愛撫の名残の痕を見つけて、辛そうな顔をする。
「本当に、すまない」
伊角の瞳からは酔いが抜けて、先ほどまでの熱っぽさはすっかりどこかに消えうせ
ていた。
それを、ヒカルは突然夢から引き戻された面持ちで眺める。
「ごめん」
重ねて謝りながら、伊角はヒカルの指貫や、狩衣まで律義に整えてくれた。
その際に伊角がヒカルの肌になるべく触れないようにしているのがわかる。仕草の
ひとつひとつがなんとも申し訳なさそうで。
「俺は、なんと言っておまえに謝ったらいいか…」
「もう、いいってば、伊角さん」
「近衛」
「伊角さん、酔っぱらってたし」
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