初めての体験 Asid 39 - 44


(39)
 ボクは、進藤を寝室へ連れていった。そして、望むとおり彼を優しく扱う。
「あ…ん…塔矢…」
進藤がボクに、キスを強請った。さっきはあれほど抵抗したのに…。やはり、未熟な
ボクがあんな真似をするのは、早すぎたのだ。真の達人なら、あれを暴力とは感じさせなかった
はずだ。
 いつまでたってもキスをしようとしないボクに焦れて、進藤が自分から唇を押しつけてきた。
甘い吐息に頭が痺れた。侵入してきた小さな舌を、思い切り吸い上げた。進藤の身体が、
微かに震えた。
 優しく胸を愛撫すると、進藤は「…っ、あぁん…」と、可愛い声で喘いだ。可愛い。
本当に可愛い。こんなに可愛いと思っているのに、頭の中は老人に陵辱される進藤のことで
いっぱいだった。さっき泣かれたばかりなのに、ボクはまったく懲りていない。


(40)
 「あ!うぅ…あぁ――――――!」
進藤は、胸につくほど、足を折り曲げて、ボクを限界まで受け入れた。その表情は、苦しげだった。額に張り付いた髪を払ってやる。
「大丈夫?」
と、訊くと、彼は無理に微笑んで頷いた。いじらしくて涙が出そうだ。
 ゆっくり身体を揺する。
「は…あ…んん…」
感じているのか、苦しげだった表情に陶酔の色があらわれ始めた。
「気持ちイイ?」
ボクの言葉に、進藤は、恥ずかしそうに顔を逸らせた。
「あっ!」
ボクが深く突き上げると、進藤の身体が痙攣するようにビクビクと震えた。
「あ、あ、あ…あぁん、イイ…」
抽挿を早くする。進藤の身体が何度も跳ねた。
「あああ――――――!!」
進藤がボクを強く締め付けた。ボクは、彼の中に欲望の飛沫を迸らせた。

 ボクの胸に頭を凭れさせている進藤の可愛い寝顔を眺めながら、ボクは反省した。今日は、
些か早急すぎた。本因坊の話を聞いて以来、体の中がモヤモヤしていたって言うのもあるが、
進藤の顔を見たら急に堪らなくなってしまった。まだ、ロクな経験も積んでいないのに…。
 それに、結局、ボクは進藤には勝てないのだ。可愛く甘えられたり、泣かれたりしたら、
ボクは折れるしかない。それに、耐えることのできる鋼鉄の意志を持たなければ、ボクの
夢は叶わないのだ。
 進藤の髪を梳いてやると、くすぐったそうに身じろいだ。ボクは、進藤を抱き寄せると、
下克上の日が早く来ることを願いつつ眠りについた。

おわり


(41)
 四ヶ月ぶりに進藤に会った。北斗杯の代表選抜の日だ。ボクの進藤は、予想通り代表の座を
勝ち取った。これで、誰にも文句は言わせない。この四ヶ月間は、長かった。
 そのまま、お持ち帰りをしようと思っていたのに、進藤は用事があるとかであっさり
ボクの誘いを断った。
「後で、行くから…」
そう言い残して、去っていった進藤が、ボクの家にやって来たのは夜中の十二時を
まわってからだった。
「ゴメンね。塔矢。オレ、ちょっとしんどいんだ…だから、今日は……」
そう言う進藤の身体から、微かに香る石鹸の匂いが彼の家で使われているものとは違うように
感じたのは、ボクの気のせいだと思いたい。それに、そもそも『しんどい』って、どこの言葉?
正面切って、問いつめられないボクは、弱虫だ。だけど、進藤の無邪気な笑顔やキラキラ
している大きな瞳に見つめられて、そんなことを訊けるヤツがこの世に存在するとは思えない。
 まあいい。こうして、進藤を抱きしめて眠れるだけでも良しとしよう。しかし、こんなに
側に進藤がいるのに、何も出来ないなんて…地獄だ。し・か・も、四ヶ月ぶり(ここ重要)
の進藤の温もり…。長い睫毛や、可愛い寝息がボクの理性にケンカを売っているようだ。
 そんなこんなで、その夜ボクは良く眠れなかった。


(42)
 翌日、進藤がどうしてもと言うので、越智と社の対局を見に行った。ボクとしては、
進藤の代表入りさえ決まれば、後のメンバーはどうでも良かったのだが…。
 進藤は、社とか言うヤツをよほど気に入ったらしい。手放しで誉める。確かに昨日の
対局はすごかった。それは、認める。だが、ボクの目の前でそんなに誉めることはないだろう?
 ムカついたので、やけくそで越智を誉めた。ボクの気持ちに気づいていないのか、進藤は、
さらに社を誉める。ちっ!越智ごときじゃ力不足だな。誉めるところがもうない…。
 結局、代表は社に決まった。どうでもいいと思っていたが、コイツが代表となると話は
別だ。あ、しかもコイツ、何気に進藤とペアルック気取ってないか?そこまで、気に
するのはボクのやっかみだろうか?
 代表に決まった社に、進藤がうれしそうに駆け寄った。
「社、おめでとう!」
ニコニコ笑う進藤を見て、社が頬を赤らめた。恥ずかしそうに、目を伏せる。
「進藤!あ、ありがとぉ…」
最初に感じた不安は的中した。コイツは絶対進藤に気がある。


(43)
 でも、チームメイトになるわけだし、一応挨拶くらいしておくか。ボクもコレくらいの
分別は持ち合わせているのだ。
「社君…おめでとう…」
進藤に負けず劣らずニッコリ笑って、お祝いの言葉を述べた。
「…!?あ…おおきに…」
何だ?ボクを見て、社は明らかに動揺した。
「なあ、塔矢。社ってすげー強いと思わネエ?」
進藤が興奮したように言う。
「うん。本当に。昨日の対局もすごかったけど、今日は落ちついた堅い一局だったね。」
ボクの心のこもっていない賞賛の言葉に、進藤は、何度も頷いて「強い」を連呼した。
 無邪気にライバルを誉める進藤は、とても可愛くて微笑ましい。だが、社をボクの目の前で
誉めるのは止めた方がいい。キミが誉めれば誉めるほど、怒りの矛先は彼に向けられるのだから…。
 まあ、放っておいても、社が進藤に接する機会は北斗杯までないだろう…が、睡眠不足も手伝って、
今日のボクは、些か機嫌が悪い。だから、場合によっては、彼が北斗杯に出られないほどの
ダメージを与えることになるかもしれない。
 ふと、気がつくと、社が、ボクと進藤を少し寂し気に見ていた。どうして、そんな目で
見るんだ?何故か、罪悪感が湧き起こる。ボクらしくもない…。
 なるほど、社はどうやらボクと進藤の関係に気づいているらしい。ちょっと、可哀想な気がする。あくまで、気がするだけだが…。ボクは、進藤と違ってライバルには優しくない。
優しくしたい相手は、進藤だけなのだ。(あと、碁会所の客。ただしこちらは営業用。)


(44)
 進藤が言っていたとおり、社は外見と中身が少々違うらしい。少し、彼に興味が湧いた。
進藤が笑えば、彼もうれしそうだし、進藤がボクに甘えた仕草を見せると、切なそうな
様子を見せた。意外だな…ヤリまくっているように見えるのに…。
 ボクは、彼の全身を頭の天辺から、つま先までじっくりと眺めた。上背はあるし、細身ながらも
筋肉質だ。目つきは少々鋭いが、根は純情らしい。照れた笑顔が意外に可愛い。今まで、
周りにいなかったタイプだ。
……………………………ふーん
 昨日進藤と出来なかったので、ボクの我慢もそろそろ限界に近い。この四ヶ月、清く正しい
生活を送ってきたとは決して言わないが、やはり昨日は期待が大きかった分、落胆も激しかった。
この際だ。彼には、ボクの欲求不満を解消するための手伝いをしてもらおう。ついでに、
しっかり、釘をさして置かねば。
 しかし、腕力勝負では負けそうだ。何か策を労さなければ…。何かないかと鞄の中を探った。
手に堅いものがあたる。ああ、こんなものが入っていたのか…。最近は物騒だから、
進藤に持たせようと思って昨日持ってきていたのに、鞄に入れたまますっかり忘れていた。
鞄で隠しながら、それをじっくりと眺めた。
……………悪いね…社……コレ試させてもらうよ…
 ボクは、スタンガンを握りしめた。



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