トーヤアキラの一日 4
(4)
ヒカルの言葉を思い出したアキラの顔は、敷布団の端を手にしたままの姿で、不気味なほど
ニヤけていた。ヒカルの要求を受け入れる代わりに、アキラも匂いに関する要求を出した
のである。
「じゃぁ、その代わりに・・・・する前にシャワーを浴びないで欲しい」
「えェ〜!!? な、なんだよ、それ!!」
「ボクだってキミの匂いが好きなんだから、お互い様だろ?」
「やだよ! んな・・・一日外出していた後の事が多いんだしさ、きれいにしたいだろ!普通」
「でも、うちの石鹸の臭いより、キミの汗の匂いの方が好きだから・・・」
「お前なー!!それ変態だぜ!!汗の匂いが好きだなんて言われても嬉しくないって」
「キミだって、ボクのシーツの匂いが好きだって言った変態じゃないか!!」
「あ、いや、だけどさ、あれは、汗の匂いとかじゃなくて、塔矢の、その・・・・・良い匂いがさ」
「同じことだよ。ダメならシーツはノリの臭いをさせておくけど、いい?」
「ったく、もう、お前には敵わないよな。但し、お前が早碁に勝った時だけだぞ」
「うん、いいよ」
そう言ってアキラは満面に笑みを湛え、ヒカルは納得の行かない顔をして溜息をついた。
アキラは早碁は得意だ。もちろんヒカルも得意なのでうっかりすると負けてしまう。現に一回
負けてしまって自分の思い通りにヒカルを扱えなかった事がある。早碁は普通の対局とは
違って、直感が物を言う。いくらアキラでも、10秒早碁では相手の応手を読み切れずに甘い手を
打ってしまう事がある。まして相手がヒカルとなれば常勝は難しい。だが、本気を出して
集中すれば勝てる自身はあった。
ヒカルは、10秒早碁対決夜の主導権争いを言い出した張本人である以上、自分からやめよう
とは言えない。これまで4回対戦してアキラは3勝している。
今日だって絶対に負けられない。純粋に「碁」の勝負としてだけではなく、「準備」を無駄に
しないためにも勝たなくてはいけないのだ。
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