無題・番外 4
(4)
あの翌日、アキラが来た。
インターフォンが鳴り、受話器の向こうにアキラの声を聞いて、モニターに映ったアキラの
姿を見て、オレは最初何も言う事が出来なかった。
何をしに来た。
映像のアキラに向かって、オレはそう言った。
オレでなく進藤を選んだおまえが、今更オレに何の用があるのかと。
何をしに来た、とは言ってもそれくらいはわかりきった事だった。
妙な所に律義なアキラの事だ。あのままオレとの事を終わらせられないとでも思ったのだろう。
最後の挨拶にでも来たつもりだったのか。(最後の挨拶?選挙運動かよ、ハッ!)
アイツは、自分がどんなに残酷な事をしているのか、まるでわかっちゃいなかった。
オレの事など気にかけず、さっさと忘れてくれた方がずっといい。
何をしに来た、と言ったオレに、アキラはどう答えたのだったろう。
受話器の向こうで、アキラが何と言っていたのか、もう、よく覚えていない。
ただ、何度か、ごめんなさい、と繰り返していたように思う。
だが。
謝罪なんか、そんな言葉なんか要らなかった。
おまえが、おまえ自身がオレのもとに帰ってくるのでなければ何も要らない。
言葉なんか要らない。欲しいのはおまえだけだ。
だが、そんな事を言う事さえ出来なかった。
何か必死に言い募るアキラの、言葉の意味など聞いていなかった。
ただ、アキラの声を聞いていた。
最後に何と言って受話器を置いたのかも覚えていない。
つまらない見栄を張って、物分かりの言い振りをして、泣きそうになっているアイツを
なだめてやったような気がする。バカか?オレは。
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