通過儀礼 自覚 4
(4)
加賀は碁笥を持ってくると、音をたてないようにそっと碁石を両手で握った。
「ホレ、何個入ってるか」
目の前に出された手をアキラは唇を噛みしめながら見つめる。何個入っているかなどわか
るわけがなかった。しかし一度やると言った以上後には引けない。アキラは握る手の大き
さから勘で数を言ってみた。
「12個」
すると加賀は手を開いて見せた。
「はずれ〜。7個でした」
加賀は楽しそうに笑った。
「こんなの見ただけでわかるわけないよ」
アキラは悔しそうに、そしてこのゲームの不条理さを指摘した。
「それならオレの手をさわってもいいぜ。少しはヒントになるだろ」
加賀は新に碁石を握り直すとアキラに見せた。アキラはその手を包み込むように握る。だ
が小さいその手は加賀の大きな手にふれたところで、碁石が何個入っているかなど予測で
きなかった。それどころか何度も握り直す加賀の手が微妙に大きさが変わっているような
気がして、何度も手にふれて確かめる。その姿を加賀は呆然と見つめていた。真剣なまな
ざしで何度も自分の手にふれてくるアキラがかわいくて、加賀は次第にこの気持ちが嘘で
はないことに気づく。そして自分の気持ちを理解した途端、下半身が熱くなるのを感じた
加賀は、握っていた碁石を投げ捨ててアキラを抱きしめた。
突然抱きつかれたアキラは一瞬何が何だかわけがわからなかった。だが自分が加賀の腕の
中にいるのだとわかると暴れだした。
けれども加賀は放すどころかさらに抱き寄せる。加賀は自分を抑えきれなくなっていた。
「やだ! 加賀君、はなしてよ」
きつく抱きしめられ、息もし辛くなったアキラは逃げようと身を捩った。
「加賀君てば! 聞こえてるの? ゲームの途中だよ。ふざけないで」
同じ小学生とはいえ体格の差が激しく、体の小さいアキラの抵抗は無に等しかった。それ
なら言葉でと思い話しかけたのだったが、それは逆にアキラをさらに追い詰める結果とな
るのだった。
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