Cry for the moon 4


(4)
「……俺もサワーがいいな。オレンジのやつ」
「僕は梅酒。本田さんは?」
「じゃあ俺はビール」
伊角とかいうやつは唖然とした顔をしてたけど、ため息をついた。
「まあ居酒屋にしたのは俺だしな……」
「そうそう。桜野さんおすすめなんだよな、ここ。伊角さんはハタチなんだから、好きな
 だけお酒を飲めるぜ」
「いや、酒はちょっと。このほうじ茶をください」
なんかジジくさいな、と思いつつ俺はメモを取り、注文を繰り返した。
「あ、ウーロン茶も。もう一人来るんだ」
「いいのか? 勝手に決めて。しかもウーロン茶かよ」
「和谷、あいつがアルコールを飲むと思う? どころか反対するぜ」
「だったら俺たちが飲んでても怒るんじゃないのか」
「飲んだもん勝ち。遅れてくるほうが悪いんだよ。三谷、よろしくな」
進藤は本当に勝手で、強引だ。でも誰も逆らえないんだ。
自分もそうだった。無理やり囲碁部に引っ張っていかれた。
いやいや入ったのに、結局あそこが俺にとって安らげる場所になった。
大切だった、あの空間。みんながいて、進藤がいて、碁を打って……。
「三谷」
立ち上がった俺に進藤は声をかける。
「おまえも好きなやつ、頼んでいいよ」
「何で」
進藤は少しすねたように唇をとがらせた。
「何でって、一緒に食べようって言っただろ」
一番値段の高い焼酎を注文してやろうか。
「……水でいいよ。今オーダーしてくるから、ごゆっくり」
背後から笑い声が聞こえた。進藤の周りはいつも明るい。良くも悪くもその影響はすごい。
そうだ、進藤はひねくれて手に負えないと両親や姉貴に言われていた俺を変えたんだ。
対して俺は進藤に少しでも影響を与えられたか?
答えは否、だ。俺は簡単に進藤に振り捨てられた。俺はその程度の存在だったんだ。



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