heat capacity2 4
(4)
気持ち良くて、気持ち良くて、それと同じ分辛い。
塔矢は俺が社を意識してるって言った。でも違う。社を意識してるのはあいつの方じゃ
ないか。
気付いてないだろうけど、あいつは自分が意識している相手の事程、頑に口を閉ざす。
気にしてない素振りをするんだ。けど、全身で意識してるって。そういうの誰が言わな
くったって解るんだよ。
社の方に心が傾いてるんじゃないかって危惧してるのは俺もだ。ううん、むしろ俺の方
が怖がってる。単なる不安なんかじゃない。あいつが社に惹かれる理由がハッキリと解
るから。
あいつは何も知らないで、言うんだ。『初めて逢った時の事が忘れられない』って。残
酷すぎるよ。あいつを惹き付けたのは俺じゃない、佐為の強さだって言われたようなも
んじゃないか。
何も───そう、何にも知らないから、純粋で素直で真直ぐな目で言うんだ、それを。
俺に取っては死刑宣告のようなものだって、知らずに。
でもそれは、俺が、俺一人で消化しなきゃいけない事だから我慢出来た。
例え、佐為がきっかけで知り合ったんだとしても、それは『きっかけ』に過ぎないんだっ
て。そう信じても良いんだろ? 今も佐為を追ってる訳じゃないって、俺は俺だって言っ
たよな。
だから、俺も溶けきれないそれを無理矢理だましだまし自分の中に混ぜ合わせた。
でも、碁の強さであいつを惹き付けたのなら、あいつが社に惹かれない保証がどこにある?
淫乱だって言われたって良いよ。俺は塔矢で満たされたいんだ。
繋がっていれば、塔矢は俺だけを求めてるんだってその一瞬だけでも感じられる。刹那
の快楽でもいいんだ。あいつが手に入るんだったら。
永遠なんてあり得ない。だからこの一瞬だけでも、体内の熱だけでも、俺は満たされる。
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