平安幻想秘聞録・第一章 4
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「囲碁の手ほどきをしたのが佐為殿というのも、近衛と同じですね」
「えぇ。光もずいぶんと上達していましたが、こちらの光ともぜひ手合
わせをしていただきたいものですね」
「手合わせ!?それって、オレと打ってくれるってこと?」
「えぇ、もちろん」
佐為と対局できる。そう思っただけで、ヒカルの背筋にびりっと電撃
のようなものが走った。
「オレ、打ちたい!今すぐにでも、ダメかな?」
「ですが、光、あなたはさっき昏睡状態から覚めたばかりなのですよ。
あまり無理をしては・・・」
「お願いだよ、佐為。オレ、ずっと、ずっと佐為と、もう一度対局をし
たかったんだ」
懇願にも似たヒカルの必死の願いに、ヒカルの弱った身体を心配して
いた佐為も遂には折れてくれた。
「分かりました」
「佐為、ほんと?」
「ですが、無理をせず、疲れたら休みを取って、最初は一局だけですよ」
「うん。それでいいよ。ありがとう、佐為!」
そのままでは風邪を引きますねと言われ、改めて自分の服装を見れば、
小袖という今で言う下着に当たる白い薄手の着物姿だった。
着替えるついでに身体を拭いて(女房の手伝いは断固として断った)、
狩袴に狩衣を着れば、ヒカルも立派な平安の世の住人に見える。
「へー、何だか変な感じだな」
「そんなことはありません。とても似合ってますよ」
「うん。似合ってるよ」
佐為と明に揃ってそう言われれば、悪い気もしない。照れ臭そうに笑
いながら、ヒカルはいつの間にか用意された碁盤の前に座った。意外に
も袖の捌きもヒカルはうまく、馴れていないとは思えないほどだ。
「では、始めましょうか?」
「うん、お願いします!」
「お願いします」
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