平安幻想秘聞録・第四章 4
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「それは、私にも分からないわ。近衛に確かめれば済むことでしょう?」
「光はここに来てるの?」
「えぇ、近衛は今日も参内してるらしいわ。昼餉の時間前に、東宮様の
お部屋を退室するはずよ」
一方、こちらは表向きは佐為の護衛として、東宮御所に日参している
ヒカルの胸中は穏やかではなかった。
佐為からの指導碁を受けながらも、東宮がこちらの様子を何かと気に
しているのが分かる。指導碁が終わった後、検討に加わるように端近に
招かれたり、ヒカルの分の白湯と菓子まで用意されている。
菓子とは言ってもこの時代のことだ、木の樹液から摂った甘葛(あま
づら)という甘味料で栗などを煮たものや干した果物などだった。甘葛
を摂るにも手間暇がかかるらしく、高価なものであるらしい。
もちろん、側に控える多くの随身にはそんなものは出されない。その
彼らよりはるかに身分の低いはずのヒカルがこうして東宮の部屋で客の
ようにもてなされるのは、破格の扱いだった。
また、退出近くになると、珍しい漢詩の本や豪華な装飾を施された飾
太刀が披露された。どれも貴重なものであることは分かったが、ヒカル
にとっては猫に小判、豚に真珠、馬の耳に念仏・・・最後の一つは若干
意味が違うが、まぁ、そういうことだ。
これには、さすがに佐為も東宮さまも甲斐のないことですねと、額に
手をやっていた。
「甲斐がないって?」
「光が喜ぶものをと、思っていらっしゃるようですよ」
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