身代わり 4
(4)
ヒカルがうるんだ瞳を向けてきた。
「……ん、さい……」
舌足らずに呼ぶ。それがどんなに佐為の心をかき乱すか、わかってはいないのだろう。
ヒカルがこうして甘えてくるのは、自分を信頼して安心しきっているからだ。
それが時おり佐為を苦しめる。
《……なんですか?》
「佐為は、オレみたいにはならないの?」
またこの質問か、と佐為は軽く苦笑した。答えはいつも同じだ。
《身体がありませんから》
ヒカルは濡れていない左手を佐為の下肢にやった。その無邪気な仕草に佐為は緊張する。
股間に触れてみるが、ヒカルの手は空をかいたのと同じ状態だった。
だが手を動かして揉んでみる。すると不思議なことに、本当にしている気分になってくる。
一方の佐為は、そこが変化するはずはないのに、うろたえていた。
身体をずらしてヒカルの手から逃れた。
《昔は、ヒカルみたいになったこともありましたよ》
「ふーん、じゃあ」
セックスは? そう聞こうとして、ヒカルはやめた。
いつもそうだ。どうしても尋ねることができない。理由はわかっている。
もし「ある」と答えられたら、イヤだからだ。自分だけの佐為でいてほしいのだ。
しかし、そう思ってしまう自分を嫌悪する感情もあった。
それに佐為が嫌がるかもしれない。こんな身勝手で子供っぽい独占欲など持った自分を。
(佐為にきらわれるのは、イヤだ)
少し気持ちが沈んでいるのに、佐為は能天気な声で話しかけてきた。
《さあさあ、後片付けをなさい。いつまでもそんな格好でいると身体を壊しますよ》
ヒカルは飄々とした様子の佐為に腹が立った。
(どこの世界に、オナニーの後始末を言われるヤツがいるんだ。ちぇっ)
自分ばかり変な気分になって、バカみたいではないか。
少しふてくされながらもヒカルはティッシュで汚れたところを拭いて、服も着なおした。
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