温泉旅情 4
(4)
「でも、オレ、楽しみにしてたんだ」
消え入りそうに小さくなる声を聞いて、混乱する。
今まで、年相応に自分の感情をストレートに表現する子供と接する機会に恵まれたことがほとんど
なかった。慣れていない状況に、どう対処していいかわからない。
「俺も楽しみだった」
自然と口をついて出た言葉は、けれど嘘ではなかった。
手帳を確認するたび、手合い前の緊張感とは違う、期待と不安の入り混じった高揚した気分になった。
それは、遠足の前日、なかなか寝付けない夜に感じたものとよく似ていた。
あれはもう随分昔のことになる。
「迷惑なんかじゃない」
それどころか、柄にもなく楽しみにしていたのだ。けっして言うつもりはないが。
「・・・良かった」
ヒカルは、安心したように息を吐き出すと、花のつぼみが綻ぶように笑う。視界の端に映った、
その無邪気な笑顔が眩しくて、目を細めた。
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