落日 4

(4)
「近衛…」
呼びかけても彼は振り向かない。
晴れた秋の空のどこか遠くを見上げたまま、彼の心は何処を彷徨っているのだろう。
確かにここにいるはずなのに、ふと目をはなしたら消えてなくなってしまいそうな程の儚げな風情に、
涙が出てきそうだった。
「……ヒカル…」
小さな声で呟いた筈の声に、少年がはっと振り返る。振り返った顔はしかし次の瞬間に凍りつき、
それからぐしゃりと歪んで、両の目からはらはらと涙が零れ落ちた。思わず彼の身体を引き寄せ、
抱きしめ、声も出さずに涙を落とす顔を胸に抱く。
「ヒカル、」
もう一度呼ぶと、彼は小さく声をあげて抱きついてきた。
がむしゃらにしがみ付いてきた細い身体に床に押し倒される。圧し掛かりながら胸元で涙を流す
子供の背を、ゆっくりと撫で擦ってやった。けれど彼はその手にいやいやと首を振り、すがり付い
ている胸元の袷を乱暴に広げた。
何を、と思う間もなく、彼の手は衣を剥ぎ、その下の身体を探っていく。
「な…やめ、」
それを押しとどめようと肩をぐっと掴むと、彼が顔をあげて、自分を見た。
涙に汚れた顔は訴えかけるように己の目を覗き込む。なぜとどめるのだと言いたげに、小さく首を
傾ける少年に、返す言葉がない。自分の心臓の音が耳元で大きく響いているように感じる。少年が
目を伏せて、己の胸にそっとくちづけた。その甘い感触に身体が震えた。そうして彼は片方の手で
衣を除け、その下の身体を探りながらもう一度顔をあげて、問うように自分を見上げた。