しじま 4


(4)
柔らかな進藤の唇がボクのそれをついばみ、舌先でちろちろと刺激する。
なのにボクはそれに応えられず、デクの坊のように突っ立ったままだった。
「塔矢?」
怪訝そうに進藤はボクの名を呼んだ。
ボクは何て言っていいかわからなかった。ここでボクが同じように、いやそれ以上に激しい
キスを返さなくてはいけないことはわかっている。
だけど身体がうまく反応しないんだ。
「……夕飯を食べよう。お腹が空いただろう?」
取ってつけたような言い方だった。進藤はため息を吐くと、ボクから離れて靴を脱いだ。
「だれが作るんだよ」
「ボクが」
進藤はとても驚いた顔をして、それから「できんの?」と聞いてきた。失敬だな。
しかし数分後、ボクは唖然とした進藤の顔を見ることになった。
「オレならもっとうまく炊けるぜ。塔矢、水の分量まちがったんじゃないのか」
水っぽいご飯を見て、進藤はそう言った。ボクは黙って焼きすぎた卵焼きを置いた。
お母さんの作るのはもっと形もきれいで、黄身もわずかに半熟が残ってやわらかそうなのに、
ボクのそれは見るからにごわごわとして固そうだった。
焦げなかったのが不幸中の幸いだ。
他にタクアンとキュウリの漬物を出した。これは門下の人が持ってきてくれたもので、絶対
に進藤もおいしいと言うはずだ。
けど食卓を見て、そのあまりの貧相さに嘆息してしまった。
進藤にこんなものを食べさせるのか、ボクは。
泣きたくなった。
「おまえさ、オレんちに来るとき、いつもうまいもん持ってきてくれてたけど、おまえ自身
は料理は下手なのな」
「……なにか店屋物を頼もう」
「いいよ、せっかく作ってくれたんだし、食べるよ」
進藤は茶碗を引き寄せると、一口食べた。そして顔をしかめた。
「やっぱりベシャッてしてるな」



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