番外編1 Yの悲劇 4
(4)
タクシーで連れて行かれた場所は高級そうな料亭だった。
いかに社会的地位のある人物とはいえ、まさかこんな贅沢な食事になるとは予
想もつかなかった。一人あたり数枚の万札が飛んでいくだろう。何枚になるか
は見当もつかない。せいぜいちょっとしたレストランか料理屋に行くものだと
思っていただけに、普段は周りから厚かましいと評される自分でも言葉がでな
い。
桑原も黙ったままだった。
なじみの店であるらしく、女将に軽くうなずくと、スイスイと奥へ入っていく。
静かな廊下を遅れないにようについていくしかない。
掛け軸やら花やらの飾られた座敷につくと、ほどなく仲居が酒と料理を運んで
きた。
「まぁ、飲まんか。」
ようやく老人が口を開いた。
「もうすぐ本因坊戦が始まるでな。その前に精をつけようと思っておったのじ
ゃ。あの小僧をつれてこようと思ったが、まぁよい。若い者なら楽しめよう。
気にすることはない。」
気分が少し軽くなる気がした。
取り寄せているらしい日本酒は、少し苦い気がした。
酒は好きだが、普段は発泡酒や酎ハイばかりだ。高級な日本酒には縁がないせ
いだろう。だが、酔って気分がほぐれれば十分だ。
お目にかかったこともない料理も前に並んでいる。
勧められるまま、酒を飲み、棋戦の裏話を興味深く聞いた。
少し、過ごしたか。いや、さほどには飲んでいないはずだ。入ったこともない
店にきて、緊張して酔いが回ったか。店というより目の前の人物に気押されて
いるせいかもしれない。嘉威は呂律が回らなくなり、次第に意識が遠のいてい
くのを感じた。
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