失着点・展界編 4
(4)
翌日、ヒカルが基院会館の入り口を入るとすぐ正面のカウンターのところに
伊角が立っていた。その沈痛な表情にヒカルは事態の深刻さを感じた。
伊角はヒカルを見るなり駆け寄ってきた。
「進藤、和谷と会ったか?」
ヒカルは首を横に振った。
「そうか…。本当にどうしちまったんだろうな、あいつ…。」
伊角は信頼できる相手だ。だけど自分と和谷との事を話すわけにはいかない。
自分とアキラとの事に勘付いた和谷の口を封じるために和谷とSEXした。
そんな話が出来る訳が無い。
そんな二人の横をアキラが通り過ぎて行った。
ヒカル達がラフな服装に比べてこの後の予定のためダークスーツでやって来た
アキラは、完全にプロ棋士・塔矢アキラの面持ちになっていた。
一瞬目が合うが、特に互いに何も言わなかった。
アキラの持つムードに圧倒されたのか伊角がゴクリと息を飲む音が聞こえた。
「今は和谷より対局の事を考えないとな…。…くそっ」
伊角も会場に入った。ヒカルはギリギリまでそこで待った。
かつて和谷がそうやって自分を待った事があるのだと、和谷から恩着せ
がましく言われたことがある。
「和谷…!」
人影が現れそうにない入り口をしばらく見つめて、ヒカルも会場に入った。
プロ棋士の仮面の隙間から、そんなヒカルをアキラはジッと見ていた。
|