魔境初?トーマスが報われている小説(タイトル無し) 4
(4)
「進藤。髪、乾かすだろ? やってやろうか?」
ぽたぽた雫を落としながら部屋に戻って尋ねられて、慌ててぶんぶんと首を振った。
そんな、今の状況で大人しく座って髪を乾かしてもらえるほど図太くない。きっととんでもないことを口走ってしまう。
だけど向こうから話しかけられて、ちょっとホッとしたのも事実。
なに話していいのかわからなかったし、もしかしたら部屋に戻るなりその……はじめちゃうのかなって身構えていたから。
もう少しだけ、心の準備の時間が欲しかった。
ドライヤーの音のおかげで、会話がないのも不自然じゃない。
だけど熱風が顔に当たって、ますます頬が火照ってくるのを感じる。
まだ生乾きっぽい状態だったけどドライヤーを熱風から冷風に切り替えて、しばらく頭をさますことにした。気持ちいい。
だけど、これが終わったらとうとう、だよな。
ちらりと鏡越しに、後ろでぼんやり雑誌をめくっているはずの和谷を見た。
雑誌は床に伏せられていた。
目が、あった。
あ。
冷えたはずの身体が、熱い。
ドライヤーの電源を、ついに切った。ことさらゆっくりと後片付けをしたのは、焦らしてるからなんかじゃない。
和谷の視線が俺だけに注がれているのを感じて、それだけで。
もう、どうしようもなく。どうしようもなく、身体の奥のほうからざわざわした妙な感覚が、湧き上がってきて。
|