うたかた 4


(4)

(危うく後輩轢くとこだったぜ…ダセェ…)
 ヒカルの熱い額に触れながら、加賀は自嘲的な笑みを浮かべた。
 バイクの運転には自信があった。自分なら、どんなじゃじゃ馬も簡単に乗りこなせる────バイクだろうが、人間だろうが。
 そう過信していただけに、今日の事故は加賀を動揺させるに相応しかった。
「年貢の納めどきっつーやつかァ…?」
 冗談めかして呟いたその言葉は、湿った空気の中に溶けて消えた。

 一時間前。
 事故の恐怖からか、ヒカルが立ち上がれなくなった。
「なんだお前、腰抜かしてんのか?」
 普段ならからかう所だが、今回ばかりは洒落にならない状況だったので加賀は軽口を叩くのは自粛した。
「ほら、負ぶされよ。」
 しゃがんだままヒカルに背を向けて、おんぶ待機の体勢になる。
「い…いいよ…、すぐ…たて、たてる…ようになる…」
 俯いて瞳を逸らすヒカルの声は、雨音にかき消されそうなほど小さく震えていた。
「つべこべ言わねーで、オレの言う通りにしろ。」
 加賀は焦れたようにヒカルの細い腕を掴んで、ムリヤリ負ぶった。ヒカルは少し身じろぎはしたが、おとなしくされるがままになっていた。
 背中に触れるヒカルの肌が氷のように冷たい。
「…お前、オレんちで暖まれ。この近くだから。」
「……かがの…?」
「ああ。」
 未遂とはいえ、事故った直後にバイクで二人乗りするわけにもいかず、加賀はヒカルを乗せるとバイクを押して家まで帰った。
 しかし、冷えた身体をゆっくり雨の中にさらしたおかげで、家に着く頃にはヒカルの体温はさっきと打って変わって跳ね上がっていた。
「進藤、オレんち着いたぞ。…大丈夫か?」
 真っ赤な顔でだるそうに目を瞑るヒカルの頬を、軽く叩いた。ヒカルが微かに眉根を寄せる。
 加賀はヒカルをまた背負うと、家の中に入っていった。
 ヒカルの小ささとか、軽さとか、体温が────妙に切なかった。



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