トーヤアキラの一日 4 - 5


(4)
ヒカルの言葉を思い出したアキラの顔は、敷布団の端を手にしたままの姿で、不気味なほど
ニヤけていた。ヒカルの要求を受け入れる代わりに、アキラも匂いに関する要求を出した
のである。
「じゃぁ、その代わりに・・・・する前にシャワーを浴びないで欲しい」
「えェ〜!!? な、なんだよ、それ!!」
「ボクだってキミの匂いが好きなんだから、お互い様だろ?」
「やだよ! んな・・・一日外出していた後の事が多いんだしさ、きれいにしたいだろ!普通」
「でも、うちの石鹸の臭いより、キミの汗の匂いの方が好きだから・・・」
「お前なー!!それ変態だぜ!!汗の匂いが好きだなんて言われても嬉しくないって」
「キミだって、ボクのシーツの匂いが好きだって言った変態じゃないか!!」
「あ、いや、だけどさ、あれは、汗の匂いとかじゃなくて、塔矢の、その・・・・・良い匂いがさ」
「同じことだよ。ダメならシーツはノリの臭いをさせておくけど、いい?」
「ったく、もう、お前には敵わないよな。但し、お前が早碁に勝った時だけだぞ」
「うん、いいよ」
そう言ってアキラは満面に笑みを湛え、ヒカルは納得の行かない顔をして溜息をついた。

アキラは早碁は得意だ。もちろんヒカルも得意なのでうっかりすると負けてしまう。現に一回
負けてしまって自分の思い通りにヒカルを扱えなかった事がある。早碁は普通の対局とは
違って、直感が物を言う。いくらアキラでも、10秒早碁では相手の応手を読み切れずに甘い手を
打ってしまう事がある。まして相手がヒカルとなれば常勝は難しい。だが、本気を出して
集中すれば勝てる自身はあった。
ヒカルは、10秒早碁対決夜の主導権争いを言い出した張本人である以上、自分からやめよう
とは言えない。これまで4回対戦してアキラは3勝している。
今日だって絶対に負けられない。純粋に「碁」の勝負としてだけではなく、「準備」を無駄に
しないためにも勝たなくてはいけないのだ。


(5)
シーツはそのまま交換せずに、布団を押入れにしまった。目覚まし時計を机の上に
置き、バスタオルを脱衣所に戻して台所に向かう。
両親が居る時は母が用意してくれるので和食が多いが、一人の時はコーヒーとパンが
中心の朝食にしている。コンビニで買ってきたパンをトーストにしてジャムをつけたり、
色々な菓子パンを買ってきて味較べをしたりしているが、今日は、昨日買ってきたグリーン
サラダが残っているのでそれにミニトマトを洗って添えた物と、卵2個でスクランブル
エッグを作って、残っていたクロワッサンで食べる事にした。
冷蔵庫を覗くと、食材が殆ど残っていない事に気がつく。今夜はヒカルが泊まりに来て、
明日の朝食も一緒に取る事を考えると、買出しをしておかなくてはいけない。
ヒカルは華奢な割にはけっこう食べるのだ。出された物は何でも「おいしい」と言って
食べてくれる。
むしゃむしゃとヒカルの口の中で咀嚼された食べ物が、喉を通っていくのを眺めるのが好きだ。
細い首に遠慮がちに突き出た喉仏が、食べ物の通過に伴って上下する。その動きを見ていると、
どうしても欲情してしまうのだ。朝食を共にしている時に特に強く感じるのは、2人きりの
食事で、ヒカルが無防備になっているせいだろうか。それとも、夜のヒカルの姿が生々しく
思い出されるからだろうか。
欲望が絶頂に達する瞬間、ヒカルは仰け反らせた頭を激しく打ち振り、大きく声を上げる。
「ん、ん・・っ・・うぅぅ・・・あぁああぁぁぁぁぁ・・・・・・っ!!!!」
その時の汗で光った首筋や喉仏を見ているからだろうか。

初めて本当に結ばれた翌朝も、ヒカルが食べる姿を見ているうちに、
───自分の舌がもっと長ければ、あの喉仏の中まで届くのに・・・。そうすれば進藤の喉の
中も自分の舌で触れる事が出来るのに・・・。
と言う不思議な欲望が突然アキラを支配した。
前の夜にさんざん味わったヒカルの口腔内であったが、一度湧き上がった衝動を抑える事は
難しかった。



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