無題・番外 4 - 5


(4)
あの翌日、アキラが来た。
インターフォンが鳴り、受話器の向こうにアキラの声を聞いて、モニターに映ったアキラの
姿を見て、オレは最初何も言う事が出来なかった。
何をしに来た。
映像のアキラに向かって、オレはそう言った。
オレでなく進藤を選んだおまえが、今更オレに何の用があるのかと。
何をしに来た、とは言ってもそれくらいはわかりきった事だった。
妙な所に律義なアキラの事だ。あのままオレとの事を終わらせられないとでも思ったのだろう。
最後の挨拶にでも来たつもりだったのか。(最後の挨拶?選挙運動かよ、ハッ!)
アイツは、自分がどんなに残酷な事をしているのか、まるでわかっちゃいなかった。
オレの事など気にかけず、さっさと忘れてくれた方がずっといい。
何をしに来た、と言ったオレに、アキラはどう答えたのだったろう。
受話器の向こうで、アキラが何と言っていたのか、もう、よく覚えていない。
ただ、何度か、ごめんなさい、と繰り返していたように思う。
だが。
謝罪なんか、そんな言葉なんか要らなかった。
おまえが、おまえ自身がオレのもとに帰ってくるのでなければ何も要らない。
言葉なんか要らない。欲しいのはおまえだけだ。
だが、そんな事を言う事さえ出来なかった。
何か必死に言い募るアキラの、言葉の意味など聞いていなかった。
ただ、アキラの声を聞いていた。
最後に何と言って受話器を置いたのかも覚えていない。
つまらない見栄を張って、物分かりの言い振りをして、泣きそうになっているアイツを
なだめてやったような気がする。バカか?オレは。


(5)
「バカだよ、オレは。物分かりのいいふりをして、さっさと手放して。
折角モノにした相手を自分から手放すなんてな。」
だがオレの腕の中で他の男の名を呼ぶ奴を、引き止めておいてどうする。虚しいだけだ。
そしてその相手も、同じように真剣にアキラを思っているのでなければ、渡したりなんかしなかった。

緒方はアキラの事を問い詰めに来た進藤ヒカルの、幼さの残る、だが真剣な眼差しを思い出した。
なぜかその眼差しはアキラを思い起こさせた。外見的には似た所なんてどこにもない筈なのに。
同じような顔をして、同じように相手のことをオレに聞いて。
まるでお互いの事しか見えていないように。
同等の強さで惹かれ合っているような二人を、横から見ていたオレはなんだ。まるで道化だ。
最初っから、オレの部屋に来たのもオレのためじゃなく、アイツのためだったのに。
最初っから、オレではなく、アイツしか見ていなかったのに。オレはそれを知っていた筈なのに。
けしかけたのはオレの方で、わざわざアイツをこの世界に呼んだのもオレだ。

オレは、バカだ。
進藤なんか構わずに、放っておけば良かったんだ。
名人に引き合わせ、院生試験の口添えをしてやり、わざわざその事をアキラに報告してやり、
まるでオレが仲立ちしてやったようなもんじゃないか?
オレさえそんな事をしなければ、進藤が棋界に入ってくることも、オレとアキラの間に入って
くることもなかったかもしれないのに。
そして近い将来、アキラを奪っただけでは飽き足らず、オレのタイトルも奪いにくるのだろう。
それともアキラの方が早いか。
二人が競り合いながら、トップまで駆け登っていく様が見えるようだ、と緒方は思った。
せめてオレの出来る事はできる限りのタイトルを保持して、頂点で彼らを待ち受ける事だけ。
彼らがそこにやってくるその日まで。だが今度は、今度こそは簡単に渡してやりはしない。



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