嘆きの少年王・訂正編 4 - 5


(4)
略装に身を整えたアキラ王は早足で城内を抜け、用意させてあった愛馬へと向かう。
そして愛馬・ハマグリゴイシにひらりと跨ると、馬上からレッドに手を伸ばした。
レッドはその手を取ってアキラ王の後ろに同じように跨った。
「しっかりつかまって、レッド。飛ばすから。」
そしてアキラ王が愛馬にムチをくれると、ハマグリゴイシは大きくいなないて、それから
駆け出して行った。
二人を乗せた白馬は一路、撮影所へと急ぐ。
アキラ王は自分の腰にまわされたレッドの腕と、背中に押し付けられた彼の胸の鼓動を
感じていた。さきほど、中途半端に煽られた身体の芯が熱く疼く。このまま、撮影になど
行かず、レッドと二人でどこかへ消えてしまいたい。そう思った。
だが、そんな訳にはいかない。
帝国の王として、そして全国百万の読者の憧れを一身に担う身として、撮影をすっぽかす
ことなど、あってはならない。
アキラ王は身体の熱を持て余しながらも、撮影所へ向かって馬を走らせた。

撮影所の門を飛び越え、二人の人物を乗せた馬が表紙撮影用のセットの前でピタリと
止まった。息を飲むスタッフ達の前に、アキラ王が、続いてレッドが華麗な身のこなしで
馬上から降りた。
「遅れて、申し分け、ありません。」
息を切らせながら、アキラ王は撮影スタッフに頭を下げた。
「いや、ま、待ってたよ、塔矢くん。間に合ってよかった。とにかく、衣装に着替えてスタンバイ
してくれ。進藤くんも、着替えて他のメンバーを呼んできてくれるか?」
突然の登場に呆気に取られたスタッフはそれだけ言うのがやっとだった。


(5)
「アキラくん、今日の衣装はこれよ。」
満面の笑みでスタイリストの市河嬢が差し出したのは、浴衣だった。
「着付、大変でしょう?手伝ってあ、げ、る。」
「い、いえ、和服は着慣れてますから大丈夫です。」
強引にアキラ王の着換えを手伝おうとするスタイリスト嬢を楽屋からやっと追い払って、
王は軽く息をついた。頬が紅潮しているのも、息が荒いのも、馬を走らせてきたためだと
だれもが思ったろう。だが、アキラ王の身体を今支配しているのは、背後から彼の身体を
抱きしめていたレッドの力強い腕の記憶だった。
こんな感傷に浸っている場合ではない、とアキラ王はパチンと両手で自分の頬を叩いてから、
少年王の略装をするりと脱ぎ捨て、今日の衣装を身に纏った。

「アイツも大変だなあ、そんな執事相手じゃさあ。」
「ああ見えても、抜けた所あるっぽいもんなあ。」
衣装を身に着けて撮影セットに向かったアキラ王の耳に、そんな笑い声が聞こえた。
アキラ王のまなじりがキッと上がる。屈辱と怒りをこらえて、アキラ王はスタッフと他の
メンバーの待つ、セットの前に進み出た。
するとさっきまで笑っていた連中の声が止まった。
アキラ王の、その凛とした涼やかな佇まいに、誰もが息を飲んだ。
「皆さん、ボクの不手際でお待たせしてしまって、大変申し分けありませんでした。」
王がそう言って深々と頭を下げると、漆黒の髪がさらりと落ちて、浴衣の襟元から覗く
白いうなじが、見るものの視線を捉えた。
カメラマンがごくり、と思わずつばを飲みながら、何とか、声を出した。
「いや…と、とんでもない。間に合ったから、大丈夫だよ。塔矢くん。
それじゃ、さっそく、キミはそこの碁盤の横に座って…」



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