昼食編 4 - 5
(4)
アキラの怒鳴り声は店内余す所無く響き渡った。
店内が静まり返ってしまった事にも、また、自分が店中の視線を集めている事にも、アキラは気付いていない。
(注目されるのに慣れているというのも、恐ろしいものかもしれない。)
もはや周囲は固唾を呑んで事の成り行きを見守っていた。
「キミはボクを馬鹿にしてるのか?からかってるつもりなのか?」
「何で…怒るんだよ。」
ムッとした顔で、ヒカルはアキラを見上げた。
「…キレイだって褒めたのに、なんで怒んの。」
「…っ……」
一瞬、言葉に詰まったアキラは、それでも何とか言い返そうとする。
「それじゃ…それじゃあ、何で笑うんだ…!」
「え…なんでって…なんかオマエがあんまり真剣っぽいからカワイイなー、と思って。」
「かっ、かわ……男に向かって可愛いなんていうな!」
「…だってホントにカワイイって思ったんだもん。」
ぎろりと睨みつけるアキラの視線をものともせずにヒカルは言う。
「やー、オレも気が付かなかったんだけどさー、塔矢って結構カワイイよなー。うん。
そうやってすぐ怒鳴るのも怖えと思ってたけど、カワイイ奴ー、って思えばヘイキだし。」
「…やっぱり、からかってるんじゃないか…っ!」
――やっぱりカワイイぞ。すげえカワイイぞ。どうしよう、オレ。
塔矢がこんなにカワイイ奴だなんて、知らなかった。
なんかこれって…ちょいヤバくねぇ?
などと妙に浮かれた気分でアキラを見ていることなんて、アキラが気付くはずも無い。
返す言葉を見つけられずにいるアキラを、にこにこ笑いながら見ていたヒカルだが、突然、壁面の
時計が目に入った。
「あ、ヤベェ、もう時間じゃん。行くぞ。」
慌ててヒカルは立ち上がり、リュックを肩にかけ卓上の伝票を手に、出入り口へ向かう。
「え………進藤、待て…!」
(5)
「お会計、○○○○円になります。」
涼やかに言う店員に、ヒカルが財布からお金を出そうとすると、追いついたアキラがヒカルの肩を掴む。
「ちょっと待て、進藤、ボクの分…」
「いいよ。」
「いいよってどういう事だ。」
「無理言ってつき合わせたんだし、奢るよ。」
「キミに奢ってもらう筋合いなんか無い。
すみません、コーヒー、おいくらでしたか。」
「え?はい?」
店員がアキラとヒカルを交互に見、困ったような顔のヒカルと依然ムッとした顔を崩さないアキラに、
思わず噴出しそうになるのをこらえながら、ビジネススマイルで彼女は言う。
「○○○円ですけど。」
それを聞いてアキラは財布を開く。
「えー、塔矢ぁ、いいって言ってるじゃん…」
「キミに借りなんか作りたくない。」
ヒカルを横目でチラリと見て、アキラは冷たく言い放ち、
「ボクの分。」
と、財布から出したお金をレジ横の皿に置き、そのまますたすたと店を出て行った。
「え、おい、塔矢、」
仕方が無いので、ヒカルはそれに自分の分を足して、レジに差し出した。
店員はにこやかにそれを受け取り、お釣りとレシートをヒカルに渡しながら言う。
「はい、×××円のお返しです。
それからこれ、サービス券。また来てね。それと…」
彼女はふふっと小さく笑って、言い足した。
「頑張ってね。」
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