金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 4 - 5
(4)
強引に手を取られて、アキラは戸惑っていた。ヒカルはどういうつもりなのだろう。
こんな風に手を握って、まるで…………まるで、恋人同士みたいじゃないか……。
「よっと!」
ヒカルは、ベンチにドカリと座った。自分がスカートを穿いているという自覚がないのか、
大きく足を開いている。
その大股開きに会社帰りのOLやサラリーマン達がギョッとして―中にはニヤニヤと
イヤらしい視線をヒカルに浴びせながら―急ぎ足で通り過ぎていく。
「進藤、足!」
アキラは、慌ててジャケット脱いで、それをヒカルの膝の上に掛けた。
「いいよ……別に見られても困らねえモン……」
そう言いながらも、ジャケットは膝の上に掛けられたまま。
それより――と、ヒカルはアキラの耳元に口を近づける。
――ドキッ
瞬間、心臓が止まりそうになった。
(5)
耳にヒカルの息が掛かる。ほんの少し身体を動かせば、その柔らかそうな唇の感触を想像ではなく
直に知ることが出来るのに………。
そんなアキラの気持ちを知ってか知らずか、ヒカルは小鳥のような息づかいでそっと囁いた。
「実はさ………この下トランクス………」
絶句するアキラを面白そうに眺めながら、ヒカルは「見る?」と、スカートを捲り上げようとする。
驚いて、その手を強く押さえつけた。
ヒカルはクスクスと笑った。悪戯好きの可愛い子犬のような仕草で。
「それなのにさぁ………オレ、和谷のトコからココにつくまでに三回も声かけられちゃた……」
「誰もオレが男だって、気付かねえんだ。こんな色気のねえモン穿いてンのにさ…」
と、言って笑う。
キシシ………その笑いに擬音を付けるとしたら、こんな感じだ。
そう言えば、小さい頃に見たアニメにこんな笑い方をする犬がいたな…と、ボンヤリ考えた。
人の悪いちょっと意地悪な笑い方。
でも、そんな笑顔でさえも、アキラを惹き付けて放さない。すごくチャーミングな笑顔だ。
どんなに意地悪な表情をしていても、全然イヤミにならない。裏表のない素直な性格だから、
それが顔に表れる。なので、仕方ないなとみんな許してしまうのだろう。
いつもなら、アキラもそう思う。だけど今日は………
『どういうつもりだ……進藤…』
―――心(しん)から楽しそうなヒカルの態度に、アキラの胸中は複雑だった。
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