初めての体験 Aside 番外・ホワイトデー 4 - 5
(4)
「こんにちは――――塔矢〜いる〜?」
あ、あのハニーボイスは………!ボクは、慌てて玄関に走った。
引き戸を開けると、進藤が大きな荷物を抱えて立っていた。お泊まり仕様だ。ボクの目が
バックを凝視していることに気づいたらしい。進藤は頬をちょっと赤らめた。
「えへへ…」
照れくさそうに笑う進藤。激ラブリー。ボクの下半身は既に臨戦態勢に入っていた。
だけど、ここはグッと我慢だ。進藤と二人でティータイム。スウィートホワイトデーを
堪能するのだ。
ボクはにこやかに進藤を招き入れた。
「あれ?なんか甘い匂いがするね?」
進藤がボクの髪に顔を近づけ、くんくんと匂いを嗅いだ。胸がドキドキする。進藤とは、
あんなこともこんなことも、とっくの昔に経験済みだと言うのに………ボクにもまだ純情な
ところがあったんだなと今更ながら驚いた。
「う……うん…進藤がおいしいって言ってくれたから…」
「え?チョコ作ってくれたんだ?」
進藤の瞳がキラキラと輝いた。
「うん、ケーキだけど…」
「ケーキ?スゲーなオマエ!」
言い様、勝手知ったるとばかりに、彼は居間へと駆けていった。
進藤は、テーブルの上に用意されたケーキを見て、目を丸くした。
「スゲー………」
進藤が、感動している。ふふふ………。
「あれ?コレ何?飾り…じゃない…なんか書いてある…」
ケーキの表面にボクがアイシングで入れたメッセージだ。そこにはフォント20Pぐらいの
文字で「進藤愛」と、びっしり書かれている。
それを見た進藤は、俯いて黙り込んでしまった。
しまった――――――――――!!ひかれたか!?
ちょっと偏執的だったか?ウケを狙ったつもりだったのに…………慣れないことはするもんじゃない。
(5)
ところが――――――――
「………もう…塔矢……バカ…」
進藤はほんのりと目元を染めて、ボクを流し見た。ゾクリとした。下半身から震えが駆け上がってくる。
「そんなことわかってるよ……バカだな……ホント…バカ…」
ああ〜押し倒したい!したい!したい!すぐ、したい!
「し、し、し、しんどぉ………!」
ボクが進藤の肩に手をかけようとした瞬間、彼はそれからするりと避けた。
「ダメ!ダメだよ…これから、このケーキ食って、碁を打って…それから……だよ…」
最後の方をゴニョゴニョとごまかして、進藤が真っ赤な顔で俯いた。
「そ、そうだよね…!」
声がひっくり返ってしまった。恥ずかしい。ちょっと焦りすぎた。
ボク達はお互い真っ赤な顔で俯いてしまった。何とも言えない雰囲気が部屋に充満している。
色に例えると艶めかしいピンク色のような甘酸っぱいレモン色というか………なんというか
ドキドキする。
「あ、そだ!オレ、オレもおやつ持ってきたんだ…」
進藤が、その妙な空気を払拭しようと話題を変えた。
「ほら、コレ。」
と、鞄の中から二十センチ四方の缶を取りだし、ボクに手渡した。
「クッキーだよ。」
進藤は、そう言って笑った。
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