魔境初?トーマスが報われている小説(タイトル無し) 4 - 5
(4)
「進藤。髪、乾かすだろ? やってやろうか?」
ぽたぽた雫を落としながら部屋に戻って尋ねられて、慌ててぶんぶんと首を振った。
そんな、今の状況で大人しく座って髪を乾かしてもらえるほど図太くない。きっととんでもないことを口走ってしまう。
だけど向こうから話しかけられて、ちょっとホッとしたのも事実。
なに話していいのかわからなかったし、もしかしたら部屋に戻るなりその……はじめちゃうのかなって身構えていたから。
もう少しだけ、心の準備の時間が欲しかった。
ドライヤーの音のおかげで、会話がないのも不自然じゃない。
だけど熱風が顔に当たって、ますます頬が火照ってくるのを感じる。
まだ生乾きっぽい状態だったけどドライヤーを熱風から冷風に切り替えて、しばらく頭をさますことにした。気持ちいい。
だけど、これが終わったらとうとう、だよな。
ちらりと鏡越しに、後ろでぼんやり雑誌をめくっているはずの和谷を見た。
雑誌は床に伏せられていた。
目が、あった。
あ。
冷えたはずの身体が、熱い。
ドライヤーの電源を、ついに切った。ことさらゆっくりと後片付けをしたのは、焦らしてるからなんかじゃない。
和谷の視線が俺だけに注がれているのを感じて、それだけで。
もう、どうしようもなく。どうしようもなく、身体の奥のほうからざわざわした妙な感覚が、湧き上がってきて。
(5)
「進藤」
俺の名前を呼ぶ声は、熱に浮かされてるみたいに掠れていた。
違う。熱でおかしくなってるのは、俺のほうかも。
だって、ほら。足元がふらふらして考えが全然まとまらない。
わかってるのは、和谷のところへ行かなきゃいけないということだけ。
狭いはずの部屋が異様に広く感じる。長い長い距離を歩いて、やっと和谷のところに辿り着いた。
「進藤・・・」
ゆっくりと抱きしめられる。和谷の胸から、俺と同じボディソープの香りがした。
いつもと違う匂いだけど、このあったかい胸と嫌味じゃない程度に筋肉のついた腕は、まちがいなく和谷のもの。
俺の大好きな、和谷の腕の中の空間。
軽く上を向かされて、俺は無意識のうちに目を閉じていた。
すぐに唇に温かいものが降ってくる。こういうところが与えられることに慣れきってる証拠だよな、って自分でも思うけど。
「っん…っ」
遊びみたいな軽いキスが、だんだん長く深くなっていく。
和谷の舌が俺の口の中に入ってきて、歯並びを確かめるように舐めまわす。
遠慮の欠片もない動きだと思う。だけどそれに嬉々として応える俺は、もっといやらしくて変態なのかも。
口の中から響いてくるぴちゃぴちゃという音に、すっかり煽られてる。
そして全身がトコロテンみたいにぐにゃぐにゃになったころ、そっとベッドに横たえられていた。
和谷が俺の上に覆い被さってくる。俺に体重をかけ過ぎないように、そっと。
ああ、いよいよ。始まっちゃうんだ。
ベッドのスプリングが小さく軋んで、始まりの合図を知らせてくれた。
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