pocket size 4 - 6


(4)
「・・・・・・」
息をすることも忘れて見守る俺に気づかない様子で、
そのちさーいちさーいアキラたんはコンビニ弁当の透明のフタの傍らに膝と手をつき、
身を乗り出してそこに置かれているパイナップルの匂いをふんふんと嗅いだ。
少し首を傾げて、それから両手を伸ばしてパイナップルを抱え上げ、うんしょと
運んで行こうとする。
あっ、待って・・・行ってしまう。行かないでくれ!

「アキラたん!」
思わず大声で呼びかけた。
アキラたんの痩せた白い背中がびくぅぅっとして、俺を振り返る。
驚いて見開かれたネコ目。ああその目だよアキラたん。やっぱりアキラたんなんだね!
夢にまで見たアキラたんに会えた喜びで感動している暇もなく、
俺に見つかったアキラたんは泣き出しそうな顔で「ごめんなさい」と叫び、
パイナップルをそこに投げ置いて駆け出した。
「あっアキラたん。待ってくれ!」

アキラたんはアキラたんなりに全速力で走っていたのだと思う。
だが何せ体の大きさが違いすぎるから、3秒と追いかけっこしないうちに
あっさり俺の両手に捕まえられてしまった。
「やっ・・・!」
アキラたんはじたばた手足を動かし、かぷ、かぷ、と俺の手に何度も噛みついたりして
必死で逃れようとした。
「アキラたん、落ち着いて。何もしないよ、大丈夫だから」
俺も必死で説得を試みた。アキラたんはそんな俺の言葉も耳に入らない様子で
しばらく暴れていたが、やがて観念したのか抵抗をやめ、泣きそうな顔で俺を見つめた。


(5)
「ええと、その・・・アキラたん、いや、塔矢アキラくんだよね」
アキラたんの恐怖心が少しでも和らぐように俺は手の力を緩め、努めて落ち着いた声で
確認した。アキラたんが驚いた顔をした。
「そうですけど・・・ボクだってわかるんですか?こんな姿なのに・・・」
「わかるよ!どこからどう見てもアキラたんだよー。アキラたん、なんでこんな所に・・・
いや、っていうかそれ以前に、どうしてそんな姿に?良かったら、わけを聞かせて
くれないか」
俺は体育座りみたいに両膝を揃えて座り、その揃えた膝の上にアキラたんの体を
ぐらつかないよう両手で支えながら座らせた。
俺がアキラたんを両手で捕まえているという体勢よりも、こうしてお互い座りながら
対等に話すほうが、誇り高いアキラたんを遇するにはふさわしいと思ったのだ。
「どうしてこんなことになったのか・・・ボクにもわからないんです。昨日進藤と一緒に
散歩していたらいきなり目眩がして、気がついたらボク一人でここに・・・民家や警察を
探して助けていただくということも考えたのですが、何しろこんな体になってしまった
ので思うように移動もできなくて・・・それに、こんな姿を人に見られたら気味悪がられる
んじゃないかと思うと、それも怖くて」
アキラたんはため息をついて言った。
ちょっとハスキーな声も聞きなれたアキラたんの声そのままで、俺はドキドキしてしまう。
「そうだったのか・・・大変だったんだね。どうしてそんなことになったのか、どうしたら
君を元に戻してあげられるのか俺はわからないけど、でも自分の力の及ぶ限り
君の力になりたいと思うよ。アキラたん、とりあえず俺のうちにおいで」
アキラたんはビックリした顔で俺を見た。


(6)
「そんな・・・初対面の方にそこまでしていただくわけには・・・」
「何言ってるんだアキラたん。そんな姿でこの先ずっとここにいるわけにも
いかないだろ?今は夏だからまだいいけど、冬になったら凍えちゃうよ。
野良猫とか野鳥に襲われるかもしれないし・・・そんな危険な状態でアキラたんを
放ってなんかおけないよ!君を知ってる俺がここに通りかかったのも何かの縁だ。
根本的な解決にはならないかもしれないけど、君を俺のうちで世話させてくれ。いいだろ」
アキラたんは考え込みながら俺の言葉を聴いていたが、やがてコクリと頷いて、
「そう言ってくださるのでしたら、ありがたくお言葉に甘えさせていただきます・・・
ご迷惑をおかけしますが、しばらくの間よろしくお願い致します」
とはっきりした口調で述べ、俺の膝の上で深々と頭を下げた。
まだ工房になったばかりくらいの年なのに、やっぱりアキラたんはしっかりしてるな〜
礼儀正しい子なんだな〜と感心する。

「よし、じゃあそれで決まり!早速うちに行こうか・・・あ、弁当がまだ残ってたか。
アキラたん、帰るの弁当食ってからでいい?アキラたんも昨日からここにいるんだったら
お腹空いてるよね。一緒に食べるかい?コンビニ弁当だけど・・・」
「あ、えっと、ボク・・・」
アキラたんが何か言う前に、ちさーい体からク〜キュルルルと可愛い音が返事をした。
アキラたんが赤くなって言う。
「・・・すみません」
「いいよ。俺今ちょうど食べながら、ここにアキラたんがいてくれたらな〜って
思ってたんだよ」
まさかそれが実現するとは思わなかった。俺はいそいそと一旦アキラたんを持ち上げると
胡坐をかき、片方の膝にアキラたんを座らせもう片方の膝に弁当を載せた。



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