検討編 4 - 7
(4)
半開きのドアから入り込む蛍光灯の光で室内は半分だけ明るい。
ヒカルの背後から射す光がアキラの顔に影を落とし、アキラからはヒカルの表情が良く見えず、
少しだけ不安を感じた。それでも抗えずにいると、またヒカルが顔を寄せてくる。
柔らかく重ねられた唇から、おずおずと探るようにヒカルの舌がアキラの唇に触れた。
熱く濡れた感触に思わずきゅっと目をつぶりながらも、そっと自分の舌を差し出す。
舌先が触れ合った瞬間に、体中に電流が走ったような気がした。
膝が小さく震えている。身体に力が入らない。
それでもこの未知の感触をもっと味わいたい。
ヒカルの舌が小さく開かれたアキラの唇の中に侵入する。
口内を探るように動くヒカルに、自分の舌を絡めあわせ、もっとヒカルを感じとろうとする。
耐え切れずに、アキラの膝がかくりと崩れた。
咄嗟にアキラはヒカルの肩にしがみ付き、ヒカルの腕がアキラの腰を支えた。
見上げる瞳は涙に潤み、軽く開かれた唇からは荒い息が漏れ、そして紅く濡れて光っている。
胸がつまって、目の奥が熱くなるのを感じながら、ヒカルは強くアキラを抱きしめた。
耳元にアキラの吐息を感じる。目の前にある頬に唇を落とすと、腕の中で彼が小さく身じろぎする。
その反応に心が震えるほど感動して、そのまま唇を首筋へと滑らす。
そうしながら、手はアキラの身体を確かめるように動く。
もっともっとアキラを感じ取りたくて、ヒカルの手がセーターの中に潜り込む。
それでもシャツがジャマだ。これじゃわからない。
シャツの裾をズボンから引きずり出して、ヒカルはその中に手を侵入させた。
(5)
「あっ、進藤、」
性急過ぎるヒカルの動きに、アキラの頭の中で警戒警報が鳴る。
「ダメ、だ…進藤、」
「…どうして……」
「だって、こんなの…ダメだ……」
「そんな、こと…、」
そう言いながら、ヒカルの手は更に奥へと侵入してアキラの身体を探り、またアキラの唇を塞ぐ。
そこから逃れようとアキラは頭を振り、流されそうになる思考を必死にとどめようとする。
「だ…って…」
だって、今、ここにいるのは、そのためじゃない。そう。ここにいるのは、
「進藤、検討…」
アキラは必死にその単語を搾り出した。
「…検討?」
今更、なんでそんな単語がここで出てくるんだと言いたげに、ヒカルが聞きかえす。
「検討、しようよ、そのために…」
その為に、ここに来たんじゃないか。
「そん…な、そんなの、……もう、ダメだ。もう、止められない。止められないよ、オレ…」
アキラの背を探っていた手がぐっとアキラを引き寄せる。
「塔矢…ダメ……?」
そんな目で、見るな。
そんな風に見られたら、そんな声で囁かれたら、ダメだなんて言えなくなる。
流される。飲み込まれる。
それにもう、ボクの中にだって熱は滾って、溢れ出そうで、こうして自分を保っているのがやっとだ。
そうして服の中を這い回るヒカルの手に身を竦ませながら、アキラは必死に意識を繋ぎとめようとした。
(6)
「塔矢…」
熱にうかされたような掠れ声で、名を呼ばれる。
その声に煽られる。流されてしまいそうになる。
「塔矢…好きだ。」
ぷつり、と、アキラの中で何かが切れた。
自分自身を繋ぎとめていたロープの、最後の一本が断ち切られて、そのままアキラは熱い奔流の
中に飲み込まれた。
アキラの身体を探っていたヒカルの手はもはや荒々しくアキラのセーターを捲り上げ、シャツの
ボタンを外そうとする。
「ああ、もうっ…!」
思うようにボタンが外せなくて、苛立たしげにヒカルが小さな声をあげる。
その手を制してアキラが捲くれ上がったセーターを頭から引き抜き脱ぎ捨て、更に残りのボタンを外し、
シャツを床に放り投げる。
一瞬、びっくりしたように手を止めたヒカルはすかさず自分の着ていたトレーナーとパーカーをまとめて
脱ぎ捨てると、アキラの手が伸び、ヒカルの身体を抱きしめた。
そしてもつれ合うようにソファに倒れこむ。
直接触れ合う肌と肌に、その熱さに目が眩む。
激しく響く心臓の音が、どちらのものなのか、もう、分からない。
「…塔矢、」
擦れた声で名を呼ぶ唇に、貪りついた。
(7)
もう、お互い、夢中になって噛り付くように唇を合わせ舌を絡め、唾液を注ぎ込み、吸い上げる。
息を継ぐ間も惜しい。
それでも、のぼせたように身体は熱くなり、息は荒くなり、抑えようもないエネルギーが今にも爆発
しそうに身体の内側から突き上げてくる。
「あっ…」
脚に当たる熱く硬い塊を感じて、アキラは思わず腰を引いた。
逃げるアキラに、ヒカルは更にそれを押し付けてくる。
ぶつかったその先の自分自身も同じようにいきり立っている事に気付いて、アキラは全身がカアッと
熱くなるのを感じてぎゅっと強く目をつぶった。
向こうもそれに気付いたのだろう。
硬く勃ち上がったそれでアキラを刺激するように押し付け、擦るように腰を動かす。
「や、やぁっ…」
ソファに横たわっていた身体を起こしかけ逃げようとする肩を、ヒカルの手が押さえつけた。
「塔矢っ…!」
そして伸び上がってもう一度唇を重ねあわそうとする。唇が重なれば下半身もまた重なる。
ぶつかり合う熱から更に逃げようとしたアキラを留めようと、ヒカルは咄嗟にアキラの中心を握りこんだ。
「あ…っ…!」
思わず見開いてしまった目の先に、ヒカルの瞳がある。
「塔矢……」
外の光を映した明るいの瞳の色に吸い込まれてしまいそうだ。
その瞳を見つめるアキラに、擦れたような低い声が届く。
「塔矢…逃げないで。」
懇願するような声の響きに、縋るような瞳の色に、動けなくなってしまう。
まるでアキラの身体に問いかけるように、ヒカルは握りこんでいた手を緩め、大事な宝物を扱うように、
そっとそれを撫でた。
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