クチナハ 〜平安陰陽師賀茂明淫妖物語〜 40
(40)
「そら、もっと食え。これはどうだ。美味いぞ」
「はい。いただきます」
夢も見ない深い眠りから明が目を覚ますと、枕元でじっと緒方が見ていた。
ずっと付いていてくれたらしい。
だいぶ長い時間眠ったような気がしたが、まだ日が傾く前だった。
明がこのまま起きると云うと、緒方はまた扇をパチンと鳴らして従者を呼びつけ
食事の支度をさせた。
いま明の枕元には蒔絵の華美な膳が幾つも並べられ、その上に山海の食物が
所狭しと載っている。
明は寝床の上で脇息に凭れたまま、緒方が横から勧める食物を大人しく口に運んでいた。
実を云うと、それほど食欲があったわけではない。
だが来るべきクチナハとの攻防に備えるためにも、体力をつけておかなければ
ならなかった。
――それにこいつがボクの中から出て行ったら、近衛と久しぶりの・・・だし。
事が解決した暁には、思い切り抱いてくれると光は云った。
それなら明としても、思い切り応えねばなるまい。
一月前のように最中に倒れるようなことがないよう今から体調を万全にして、
光のほうが先に音をあげるくらい努めねば――
期待含みの使命感に燃えてせっせと箸を動かす明を、
緒方は横からじっと見つめていた。
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