白と黒の宴2 40
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「…やはりオレは、逃れる事ができないのか…。」
高波が静かに去って行く中で観念したような緒方の言葉を聞いた気がした。
拘束とアイマスクが解かれた後、ぼんやりとした表情でアキラは緒方を見つめその顔を両手で包んだ。
緒方に優しく、そして強く抱き締められ、唇を重ねられた。覚えているのはそこまでだった。
意識を手放し、空間に漂うような感覚の中で、ただアキラは幸福だった。
心ではヒカルを追いながら、体は緒方との繋がりを求め、その一方で社の情熱を拒みきれない自分がいる。
自分の魂が何処に行き着こうとしているのか、今のアキラにはわからなかった。
おそらく緒方も、社も同じなのだろう。体を重ね合わしている瞬間だけが全てだった。
答えは、まだ出せない。自分が誰を選ぼうとしているのか。
緒方の部屋で気を失った後、次の日は丸一日起きられなかった。激しい脱水症状もあった。
緒方がまだ本因坊リーグ戦のまっただ中にいて、次の対戦相手が桑原の次に囲碁界では
強豪の座間である事をアキラは知っていた。
そのためにも緒方は、自分との関係に無理にでも決着をつけようとしたのだろう。
全てを吹っ切って対局に臨むために。
「…体調はどうだ。」
ベッドの上のアキラに、緒方は水を持って来てくれた。
肩を抱くようにしてアキラの上半身を起こさせ、コップをアキラの口にあてがって飲ませてくれた。
「…すまなかった。」
緒方の言葉にアキラは黙って首を横に振ると、緒方の胸にもたれ掛かった。
残酷な事をしているのは自分の方かもしれないと思いつつ。
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