平安幻想異聞録-異聞- 40


(40)
「それにしても、検非違使風情に、佐為の君ともあろうものが、そこまで入れ込むとは…、
佐為殿に焦がれる女は、この宮中に星の数ほどいましょうに」
「いやいや。顕忠、いくら美味い酒でも、毎夜続けて飲めば飽きると申す。
 佐為の君ほどにもなると、普通の女の味ではもう飽き足らず、変わった酒の味を
 おもとめになられるのであろうよ」
そう言って、座間が下卑た視線で、佐為の隣りのヒカルの足元からその胸、
のど元まで、じっくりとねめつける。
ヒカルはその視線に、否が応でも、あの夜、自分の体を這った、ナメクジのような
座間の舌の感触を思い出さずにはいられない。仕立て直したばかりの青い狩衣の下の
自分の体を、まるで、透かして見られているような気色の悪さに、ヒカルは、
後ずさりして佐為の後ろに身を隠してしまいたくなるのを、必死でこらえた。
「さてもさても、佐為殿も夢中になる、この珍しい酒を今度ぜひ、
 ご相伴させていただきたいものですなぁ」
座間の扇が、ついとヒカルの襟元に当てられた。
そして、まるであの夜のことを思い出させるかのように、その扇の先で、
ヒカルの白い喉もとをねぶった。
「この辺りはなかなか美味そうに見えるが、本当に美味いのはこの青い衣の下の
 小さな二つのつぼみかのう。それとも、もっと下の方かのう」
ヒカルは見てしまった。座間と菅原の目の中には、まだあの夜の、犯され、
泣いて許しを乞う自分がいた。二人の目の中では、自分は今も陵辱され続けているのだ。
足がすくんだ。
何か言い返すなり、一歩引いて座間から離れるなりしなきゃと思うのに、
動けなかった。
その時――
パシリ。
と、小気味のよい音がして。座間の扇が、飛んで大内裏の庭先に落ちた。
佐為が自らの扇で、ヒカルの喉元に当てられていた座間のそれを、
打って飛ばしたのだ。



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