うたかた 40


(40)
 耳元で優しく囁く冴木の声を掻き消すように、ヒカルは首を横に振った。
「なんで…?進藤はオレのことが嫌い?」
「ちが…う、けど…っ」
「…加賀ってヤツのことが好きだからダメなのか?」
 ヒカルの上気した頬が更に染まったのを見て、冴木は眉をひそめた。
「オレが初めてこの部屋に来たとき、進藤が言ってた『アイツ』って…加賀のことか?」
「え?」
「進藤にあんな悲しそうな顔させるヤツのことなんか、忘れちゃえよ。」
 冴木はヒカルを抱きしめると、熱い唇を何度も奪った。その間から舌を差し入れてヒカルのものを絡め取る。
 ヒカルは抵抗したが、その細い腕ではたかが知れたものだった。冴木も負けず劣らず細身ではあるが、こう見えて筋肉はちゃんとついているのだ。
「……加賀‥は…」
 キスの合間にヒカルが小さく声を上げた。
「加賀は…オレの傍にいてくれるって、言ったんだ……。」
「だから加賀のことが好きだって言うのか?進藤、それは恋じゃないよ。」
「え……」
 諭すように言うと、ヒカルの大きな瞳はゆらゆらとさまよった。混乱しているのが手に取るようにわかる。
(あと、もう一押しだ。)
 冴木はヒカルの両肩を掴み、しっかりと瞳を見据えた。


 ────白星を掴むのは、オレだ。



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