初めての体験+Aside 40 - 41
(40)
昼食は昨日の残りのカレーだった。カレーは二日目が美味いのだ。和やかに食卓を囲む。
ヒカルは色々なことを一人で喋り続けている。北斗杯のことや、家族のこと、友人のこと…。
くるくるとよく変わる表情は、見ていて飽きない。
アキラも楽しそうにヒカルを見つめていた。ヒカルの罪のないおしゃべりに、音楽でも
聞いているかのように、うっとりと聞き惚れている。まるで一枚の絵のようだ。
『塔矢もこうやって見ている分にはええんやけど…中身は悪魔やからな…』
やっぱり、自分は天使がいい。ところが、その天使がとんでも無いことを口にした。
「なあ、社。この家…実は、座敷牢があるんだぜ。」
カレーを吹き出しそうになった。確かにこの古い家ならあるかもしれない。社は、まじまじと
ヒカルを見つめた。
「なーんて、ウソ!本気にした?」
クスクスと笑って、顔を覗き込んでくる。ビックリした。ウソなのか…。
「あるわけないじゃん!な、塔矢!」
ヒカルはアキラへ笑顔を向けた。その時、一瞬アキラから表情が消えた。だが、すぐに、
「…………………………………………………………当たり前じゃないか…ハハハ…」
と、ニッコリ微笑んだ。それから「進藤は冗談が好きだな」そう言って、ヒカルの額をつついた。
―――――な、な、な、な、なんや!?今の間は!!!!!!
真実を問いたいという好奇心と、それに触れてはならないという警告が鬩ぎ合う。
北斗杯を前に、すでに疲労困憊の社だった。ヒカルの笑顔というエネルギー源がなければ
とっくにドロップアウトをしているだろう。ヒカルで潤い、アキラで枯れる。緑の森が
砂漠化していくような感じだ。
―――――オレ…生きて帰れるんやろか……
ものすごく、不安になった。
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それから、十時間…。社は耐えた。眠りそうになると、そっと部屋を抜け出し、自らに
ビンタを張り、あるいは太股をつねって耐えに耐えた。だが、もうそれも効かない。
時計の針の進みが遅い。アキラが細工しているのではないかと思ったりもした。
もうアカン――――――社が意識を手放しかけたとき、アキラが漸く就寝を告げた。
『た…たすかった…』
社の思考はもう半分停止していた。アキラがヒカルを連れて、自分の部屋に戻っていったときも
「やっと、眠れる」という考えしかなかった。その時、ヒカルがアキラに何か言っていたが、
その内容は全然聞こえていなかった。おそらく、社のことを話していたのではないだろうか。
アキラはヒカルを宥めて、強引に自室に引っ張って行った。それをとがめる気力は、既に
社には残っていない。その時点で、社はアキラに負けてしまっていた。
社のヒカルへの思いは、睡魔の前に敗れ去った。悔しいという気持ちも湧いてこない。
ただ、ひたすら眠りたかった。
ドサッ―――――布団の上に倒れ込んだ。そのまま社の意識は途切れた。
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