平安幻想異聞録-異聞- 41
(41)
座間の取り巻きたちが、いっせいに腰の太刀に手をかけた。
だが、佐為はひるむ様子もなく、座間と菅原を睨みつける。
「言動に気をつけられよ、座間殿、菅原殿。私の警護役への侮辱は、
私への侮辱も同じ。それ以上、無礼な発言はひかえられるがよい」
「非礼であろう!このように扇を飛ばすなど!」
菅原が言い返す。
「非礼はどちらであるか! 自らより官位が低いとて、元服を終えた男子へ、
そのような野卑な物言い、たとえ、座間さまでも許されるものではありませんぞ」
佐為の口調はいっそ苛烈だ。
「私の警護役は余計な争いを嫌いますゆえ、あえて、ここで刀は
抜き申さぬが、一人前の武官に対してその言いようは、例えこの場で
叩き切られても文句は言えませぬぞ!」
「武官とな」
座間が、取り巻きの衛士から、落ちた扇を手渡されながら、言った。
「なるほど。失念しておった。何しろ、幾日前であったか。この検非違使と
よく似た者が、女のように声をあげ、可愛く泣いてよがるのを見ておった
ものでのう。いや、申し訳ないことをしたわい」
ヒカルの顔が青ざめる。
座間が金の箔を貼られた扇を開き、それで口元をかくして、
そのヒカルの方を見て低く笑う。
「いや、検非違使殿。あの夜、あの竹林からみた下弦の月は、まこと
見事であったのう」
「何が、おっしゃりたいのです。座間殿」
常の穏やかさの片鱗もない、切るように鋭い佐為の視線が座間に向けられた。
「御二方が、その下弦の月の夜に何を見たか、何をしたか、
存じませぬが、我が警護役には関係のないこと。それとも…」
その佐為の手はそっと、狩衣の袖の下でわからないように、ヒカルの
震える手に添えられた。
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