失着点・展界編 41


(41)
「進藤」
ヒカルは驚いて振り返った。ヒカルを追って来た緒方は、少ないとはいえ
人通りがある大通りの歩道から1本小道に入った処へさり気なく誘導した。
「…オレに会いに来たのか。」
低く静かな問いかけにヒカルはわずかに胸を踊らせながら素直に頷いた。
「…来なさい。」
顔が上気していくのがわかる。…自分の事を気に掛けて、追ってきてくれた。
そんな緒方と言う人物が特別な人のように感じられた。
忍ぶように早足になる緒方の後をついていく。
緒方が向かった先には駐車場があり、そこに緒方の愛車があった。
ロックが解除され、何を言われたわけではなかったが、ヒカルは助手席に
乗り込んだ。二人を乗せた車は滑らかに停車枠から滑り出し、
入り組んだ裏通りを迷う事なく走り抜けて行く。
その車を、不審気に見送る一人の人影がある事にヒカルは気がつかなかった。
駐車場から直通のエレベーターで上がり、緒方の部屋に向かう。
…あらためて訪問することに緊張感が走った。自分の意志でここに来たことに
後ろめたさがあった。アキラがいない時に、アキラ以外の人物の部屋を訪ねる
という行為そのものに対して。
ただこれは、問題を解決するためなのだ。アキラの名前は絶対に出さない。
緒方に話を聞いてもらいたかった。自分が抱えている問題が、たいした事では
ないのだと笑い飛ばして欲しかった。
部屋に入るとすぐにあの静かなモーター音が耳に入って来た。熱帯魚の水槽の
方から聞こえて来る。あの夜の事がヒカルの中に一気に蘇って来た。
緒方の唇の感触と共に。



TOPページ先頭 表示数を保持: ■

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!