誘惑 第三部 41 - 45


(41)
打ち掛けの時間になっても、ヒカルはしばらく盤面を見つめ、今後の展開を練っていた。
ふと顔を上げ、周りを見回すと、アキラの姿は既になかった。
けれどヒカルはアキラを追わず、そのまま昼食を取るために外に出た。

相手の投了で勝負はついた。石を片付けてから結果を書き込みに行くと、ボードには既にアキラの
中押し勝ちが記入されていた。アキラの姿は見えない。だが、今日は手合いの後に取材が入って
いると言っていた。ヒカルはそのままアキラを待つ事にした。

頭の中で今日の対局を検討していると、ふいに声をかけられた。
「進藤?帰らないのか?」
「ああ、塔矢を待ってるんだ。」
何気なく答えて顔を上げてから、ヒカルは息を飲んだ。
「和谷…」
ヒカルを見下ろしている和谷の顔が蒼ざめているような気がした。
自分の事ばっかりで、もうオレは忘れてた。和谷は塔矢を…。
でも、だからって何が言える?何も言えない。オレだったら、何も言って欲しくない。
ごめん、とか、おまえの気持ちもわかる、とか、でも塔矢は、とか。

色んな事を言いたいような気もしたけど、でもそれは言っちゃいけないような気がして、和谷を真っ
直ぐ見たまま、固い声で、もう一度同じ言葉を繰り返した。
「塔矢を、待ってるんだ。」
「そっ…か。」
多分、笑おうとしたんだろう。口元を歪ませたまま、じゃあな、と言って、和谷はヒカルに背を向けた。
ごめん、和谷。
でも、和谷がどんなに塔矢を好きだって言ったって、これだけは譲れない。誰にも渡さない。和谷だっ
て、緒方先生だって、他の誰だって。


(42)
「ああ、つっかれた…!」
開口一番、アキラはそう言って、さも疲れきったように部屋に上がった。
「誰が考えたんだ。こんな窮屈なもの。」
と、ネクタイを解きながらアキラは言った。
「だったらわざわざスーツなんか着て来なきゃいいじゃんか。」
「だって棋院に行くのも久しぶりだったし、取材もあったんだから、あんまりラフな格好って訳にも
いかないだろ。」
そう言いながら外したネクタイをそこらへんに投げ捨て、シャツのボタンを一つ二つ外し、更に上着
も脱ぎ捨てると、ぱったりとベッドに倒れこんだ。
大の字になってベッドに転がったアキラを、ヒカルは呆れた目で見た。
「おまえ…さっきまでと別人みたいだぜ?」
「そう?」
「とりあえず、そこらへんに放っとくなよ、コレ。それにそのまんまだとシワになるぜ?」
アキラが投げ捨てた上着とネクタイを拾い上げてハンガーにかけながら、ヒカルは小言を続ける。
「まーったく、塔矢アキラがこんな甘ったれの不精者だなんて、今日あそこにいた連中は絶対知ら
ないぜ?」
「そうだよ。ボクは外面がいいからね。」
そう言って、ごろんとベッドの上で転がって仰向けになると、ヒカルを見上げてにっと笑った。
「今まで培ってきた習慣なんて、中々変えられないよ。
でも、キミの前では自分を作ったりしたくないんだ。」
「じゃあ、その甘ったれの無精者がおまえの本質ってわけかよ…?」
「そうかもね。」
否定しようともしないアキラに呆れかえって、転がっているアキラを見下ろした。
「ほんっと、サイテーだよな。甘ったれで、ワガママで、自分勝手で、人でなしで、そのくせスケベで、」
「その上、嫉妬深いし、独占欲は強いし、性格は歪んでるし、性的嗜好も歪んでて男にしか欲情しな
い変態だし、」
笑いながらアキラが続けた。
「あ、間違えた。欲情するのはキミにだけだった。」
そう言ってアキラはヒカルに手を差し伸べた。
呆れながら近づいてその手を取ると、思いがけない強さでぐいっと引っ張られる。
そのままベッドに引き摺り込まれ、唇が重なって、ヒカルは目を閉じた。


(43)
「進藤…」
低い、甘い声がオレを呼ぶ。
目を開けると塔矢がオレを見ている。
オレを捕らえて放さない、真っ黒な、深い、深い色の瞳。
久しぶりに見たその目の色に、ゾクリと背が震える。
「…いい?」
そんな目で見られたらオレが逃げられないって知ってるくせに、わざわざ聞いてくんなよ、馬鹿。
「やだって言ったらやめんのか?」
「本当に本気で嫌なんなら。嫌なの?」
嫌なはず、ない。
それどころか。

おまえは知らない。
おまえがいない間、どんなにオレがおまえの事を思ってたか。
オレがどんなにおまえが欲しかったか。
おまえを想ってオレが何してたかなんて。
おまえは知らない。
だから教えてなんかやらない。
欲しくて欲しくて待ち焦がれてたなんて、言ってなんかやらない。
だからおまえももっとオレを欲しがれよ。
欲しくて欲しくてたまらないって目で、オレを見ろよ。
オレはおまえのそんな目がたまらなく好きだ。
オレに欲情してるおまえの目が好きだ。


(44)
「やめられるのか?」
煽るように言い返してやると、
「本気で嫌ならね。」
でも違うだろ、と言いたげに塔矢は嫌みったらしく笑う。
オレはそんな塔矢の顔にくらくらしてしまう。
そんなくだらない言い合いをしながら、塔矢の手は器用にオレの服を脱がせていく。
悔しいからオレも塔矢の服に手をかける。
汚ねーよ、おまえ。つい昨日まで、オレがいなきゃ生きてけないみたいに甘えて擦り寄ってたのは
誰だよ。オレの腕ん中で甘えた泣き声を上げてたのはどこのどいつだよ。「しんどう…もっと…」
なんて、涙を溜めながらオレに抱きついてたのは誰なんだよ。
悔しいよ。
結局主導権握ってるのはおまえじゃんか。
おまえがやりたい時にはやらせてやって、して欲しい時にはお望みどおりしてやるほど、そこまで
オレはおまえに都合よくなんてないぞ。そうそう自分の思い通りに全部動くなんて、思うなよ。
ただ。
ただ今日は。
オレもずっとして欲しかったからさ。
だからやらせてやるだけなんだからな。
だから、もっと熱くなれよ。オレを熱くしろよ。
何も考えられないくらい、熱くしろよ。オレを滅茶苦茶にしろよ。
でないと二度とやらせてなんかやらねェ。


(45)
塔矢の身体の上にのしかかったまま、唇に噛り付く。
貪るようなキスを繰り返すうちに、気付いたらあいつの手がオレの胸を探っていた。
そしてもう片方の手は腰から脚に向かって動き、オレの尻を捏ね回し、指先で入り口を擽る。
やられてばっかじゃ悔しいから、上にいるのをいい事にあいつの胸元に顔を寄せて、紅く色づいた
乳首をぺロッと舐めてやると、俺の下であいつの身体がひくりと震えた。
調子に乗ってそれを舌先で捏ね回し、次第にふっくらとしてきたそれに噛り付くと、対抗するように
あいつの指がぐっと俺の中に捻り込まれた。
あいつの指がおれの奥に入っていくのに従って、オレは膝をついて腰を高く上げてしまう。
オレの中で動くあいつの指を感じながら、あいつの胸に舌を這わせたまま、更に片膝を脚の間に
割り込んで開かせて、勃ち上がりかけているあいつを握り込むと、オレの手の中のあいつはびく
びくと熱くふるえる。

ちょっと待て。この体勢は、えーと、あれれ?
……いいや、いっちゃえ。

勢いに任せてそのまま塔矢の後ろにオレを押し付けると、あいつは、え、と言う風に目を瞠る。
ふん、ざまあみろ。そんな風に笑ってやって、そのままぐっと先端を押し進める。すると、一瞬、
躊躇したみたいに見えたあいつはすぐにオレに向かって挑発的な笑いを浮かべた。そしてあい
つの身体は素直にオレを受け入れる。いやそれどころか、むしろ積極的にオレを引き込むよう
に身体を開く。
オレを飲み込んだ塔矢は驚くほど貪欲だった。
熱く蠢く内壁は誘い込むように締め付け、煽るように動く。
奔放に、貪欲に動く塔矢が、オレの手の中から逃げていってしまわないように乱暴に引き寄せて
身体を揺すると、悲鳴にも近い喘ぎ声があがってそれがオレを燃え立たせる。



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