金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 41 - 45
(41)
「もう一度だけ訊いておくよ。」
笑いを納めて、真剣な顔を作ると、ヒカルも同じように神妙な顔つきになった。
「本当に、酔っていないんだね?」
「しつこいな…酔ってネエってば!」
「あとで酔っていたから、無効だなんて言わないね?」
「くどいぞ!」
プーッと頬をふくらませるヒカルにアキラは手を伸ばす。まず、髪に触れた。さらさらとした感触。
それから、額から頬へと指を滑らせた。さっきと同じように、最初は指先だけで…それから
両手で包み込むようにしっかりと撫でた。
ヒカルはその間動かなかった。時折、ヒカルがアキラをまねて手を伸ばし掛けていたが、
自分に触れる直前で戸惑ったように手を下ろしてしまう。
暫く惑いながら彷徨っていた手が、意を決したようにアキラの項に触れ、引き寄せられた。
それを合図に、ヒカルの頬に触れていたアキラの指先がセーラー服のカラーを滑り、スカーフを
抜き取った。水のように淀みないあまりに自然なその手の動きに、ヒカルは目を見開いて驚いていた。
シュッと軽い摩擦を服に与え、ヒカルの目の前を薄羽根のようなスカーフがふわりと舞った。
(42)
「と、塔矢!?」
目を丸くしているヒカルの口を自分のそれで塞ぐと、ヒカルの肩を押さえ、そのまま前に倒れた。
「ン…んん……」
ヒカルが苦しげに呻いた。その瞬間を逃さずに、舌を滑り込ませる。ザラリとした感触が舌先に
あたった。それはアキラが触れた瞬間、ビクンと奥へと引っ込んだ。それがヒカルの舌なのだと感じて、
アキラは積極的に追い掛け、それを絡め取った。
そうして、ヒカルに情熱的なキスを与えながら、手をセーラー服の中へと侵入させた。
彼の薄い胸や、ぺこんとくぼんだ腹の感触を掌で味わう。ヒカルのすべらかな肌を撫でまわしながら、
上着を徐々に引き上げていった。もう片方の手で、スカートの下に手を這わすと、ヒカルの
身体がビクンと跳ねた。
アキラはもう夢中になっていた。腕の中のヒカルが身動ぎして逃れようとするのを無視して、
服を剥ぎ取ろうとする。
その時、後頭部に痛みが走った。ヒカルが平手で頭をはたいたのだ。
「痛!何をするんだ!バカ!」
「バカはオマエだ!」
アキラが怒鳴るとヒカルも負けじと怒鳴り返した。その剣幕にアキラは一瞬怯んだ。さっきまで
恥じらい、躊躇いながらアキラの思いを受け入れていた彼が、突然自分を突き放したのだ。
ヒカルはアキラを睨み付けた。
「コレ!このセーラー服、借り物なんだぞ!?破れたり、汚したりしたらどうすんだよ!」
そう言って、アキラを押しのけると自分で服を脱ぎ始めた。
(43)
最初は茫然とヒカルを見ていたが、我に返って「待って、ボクがやる!」と、ヒカルの手首を
掴んだ。せっかくの初めての夜なのだから、自分で全てやりたい。
ヒカルがじっと視線を合わせてきた。何かとんでもなく恥ずかしいことを言ってしまったようで、
アキラは俯いた。
ヒカルは黙って上着の脇についているファスナーにかけていた手を離し、バンザイをするように
両手をあげてアキラに向き直った。どこか心細げで、頼りなげな表情。もしかして、さっきの
強気な態度は不安な気持ちの裏返しかもしれない。
震える手でゆっくりとファスナーを引き上げていくと、ヒカルの白い肌が少しずつ露わになっていく。
アキラの手の動きに合わせて、ヒカルは身体を前に倒した。そのままセーラー服を引っ張ると、
すぽんとヒカルの身体がそこから抜けた。
上半身裸でペタンと布団に座っているヒカルは、普段以上に幼く見えた。
「バーカ…ジロジロ見るな。」
ヒカルはアキラの視線から身体を隠そうと、後ろを向いた。その背中は白くて、滑らかで
唇を押しつけたい衝動に駆られた。
「進藤…スカートも…」
上擦った声で促すと、ヒカルは怖ず怖ずと振り返り、膝立ちになった。
(44)
アキラはヒカルの細い腰に引っかかっているスカートのホックを外し、ファスナーに手をかけた。
ジーッ―――ファスナーをおろす音。それに合わせて心臓がバクバクと音を立てて、アキラの
頭の中に響く。緊張して手が震えて、最後までファスナーをおろしきったときアキラは安堵の
息さえ吐いた。
アキラがそこから手を離すと同時に、ストンとスカートが落ちた。ヒカルは今や下着一枚の
あられもない姿で…ドキドキしながら視線を下げて、アキラは「あれ?」と目を瞬かせた。
身体が震える。堪えようとしても堪えられない。耐えきれずにとうとう吹き出した。
「何だよ!笑うな!」
「だって…キミ…そのパンツ…」
アキラは息を止めて、こみ上げる笑いを何とか止めようとした。
「こうしないとスカートからはみ出しちゃうんだから、しょうがねえだろ!」
ヒカルはトランクスの裾を折り曲げて、安全ピンで留めていたのだ。
「…でも…アハハ…ああ…おかしい…」
「もう…バカ!笑うなったら!」
緊張も何もかも吹き飛んでしまった。さっきまですごく厳かな儀式を執り行っていたような
気がしていたのに…身体の力が一瞬で抜けた。
「もう知らねえ!オマエとはしねえ…やめる!」
と、手近にあった枕を投げつけられた。
「痛…!ゴメン…ゴメンってば…!」
「うるさい…バカ!」
すっかりへそを曲げてしまったヒカルをギュッと抱きしめた。
「好きだよ…ボク…キミのことがすごく好きだ…」
「じゃあ、もう笑うなよ?」
ヒカルはアキラの首に腕をまわした。間近にある彼のふくれっ面。アキラはにっこり笑うと、
返事の代わりにそのふくれた頬にキスをした。
(45)
もう一度ヒカルを布団の上にそっと横たわらせた。そして、裸で震えているヒカルの前で、
自分も服を脱いだ。ズボンも下着も、全て脱ぎ捨てヒカルの上に再び覆い被さった。
ヒカルの腕がアキラの首にまわった。両手でギュッと抱きしめてくる。そうやって、
しがみついたまま、彼は不安そうに瞳を揺らせた。
「なあ…オレ、したことないんだ…どうしたらいい?」
どうしたらいいと訊かれても………
「オマエ、どう?したことある?」
嘘を言っても仕方がないし、どうせすぐにバレるので、アキラは正直に「ない」と、答えた。
「じゃあ、どうするんだよ?」
心細げな声に身体が震えた。どうするかなんて、自分にもわからない。ただ、身体の奥から
突き上げてくるような熱さが、その答えだと思った。
「なあってばぁ…」
ヒカルは軽くアキラを揺すった。駄々をこねるように、何度も何度も身体を揺さぶる。
「甘えてるの?赤ちゃんみたいだ…」
「だって…」
オマエは怖くないの?と、ヒカルはアキラを見つめる。
「うん…怖い…キミと同じ…」
その瞬間、ヒカルは安心したかのように、全身の力を抜いた。項にかけられていた腕がするりと
肩を滑って、布団の上にぱたりと落ちた。
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