失着点・龍界編 41 - 45
(41)
「さすがは元名人の息子だな。度胸が座っている…。許しの一つでも
泣いて乞うかと思ったが…」
そういって沢淵がアキラの顔を引き寄せ、額の髪の匂いを嗅ぐ。手で頬を撫で
形の良い薄い唇に自分の唇を近付けた。その目前のアキラの唇が動いた。
「あなたには二度と石を持って欲しくない。言いたいことはそれだけです。」
それを聞いた沢淵の眉がぴくりと動いた。
アキラの目は、完全に沢淵を見下していた。
これ以上は無い程の軽蔑と蔑みを含んだ目で。
それまで余裕の表情を見せていた沢淵の顔色が青ざめ、そして怒りに赤らむ。
額の血管が浮き上がる。
「…そういう目でオレを見るな…!」
沢淵は急に乱暴にアキラの首を掴むようにして唇を奪い、貪り始める。
それでもアキラはほとんど表情を変えず、抵抗する素振りを見せなかった。
まるでそこに何ものも存在してないように。
沢淵は苛立ったようにアキラの白い歯をこじ開け舌を侵入させて口内を犯し
始める。後頭部を押さえ付け、腰に腕を回して抱き、身長差でアキラの体が
床から離れた状態になった。それでもアキラの両手は沢淵を遮るわけでもなく
血の通わない人形のように体の両脇に下ろされたままだった。
ただ唇を奪われながらもなお沢淵に向けられた冷たい視線はそのままだった。
沢淵はアキラの軽い痩身を抱え上げると隣室に運んだ。
「いつまで、その取り澄ました表情でいられるかな…」
ベッドの上にアキラの体を投げ出すと直ぐに沢淵は荒っぽい手付きで
ズボンを引き剥がしアンダーのタートルネックの薄いシャツを奪い取った。
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白のランニングもブリーフもあっという間に取り払われた。
アキラは沢淵の暴挙から身を守るように体を縮めて横たわっていたが、
ようやく落ち着きを取り戻した沢淵によってベッドの上に仰向けにされ
足を伸ばされ、両腕を顔の両脇に押さえ付けられた。姑くの間
アキラは沢淵によって視姦された。沢淵はじっくりと指先、肩、膝から
臑にかけてアキラの体のパーツの一つ一つの造型を眺める。
「まるで精巧に彫刻された芸術品のようだな…」
沢淵の賞賛と愚劣な行為を無視してアキラは無表情に天井を見つめる。
時間をかけてアキラを目で楽しむと沢淵は手を伸ばし、皮膚の手触りを
味わい始めた。額から鼻筋、唇と指でなぞり、首、そして胸板へと
体の表面に手の平を滑らせて行く。
まだ中性的な幼さを残す肢体を隅々まで確認する。
そのまま脇へ手を運び、体の骨格を確かめるように腰からももの
体側を辿って足首までいくと、片足を持ち上げて足の甲にキスをした。
だが視線はその足の付け根部分にすでに移されていた。
沢淵はもう片方の手を足の内側にそって伸ばすとその先にあった体の中央の
最も柔らかな部分に指で触れる。刺激にそれがピクリと震え、その表面の
皮膚がわずかに動いた。
それでもアキラの視線は動かず、何の反応も示さなかった。
「まだ、完全には大人になりきれていないようだな…」
ごく淡く色付いているだけの果実を包んだ白い包皮をそっと撫でる。
「楽しみは後にとっておこう」
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沢淵の無骨な指が体のその他の場所を荒々しくなぞり始める。
アキラの両足の間に体を入れ、下半身を抱え込むように沢淵はアキラの体の
下に両手を差し入れて臀部を鷲掴みにし揉みしだき、腹部から胸部にかけて
舌を這わせる。
「…!」
アキラは唇を噛み、おぞましい感触に耐える。
与えようとしているのが快感なのか苦痛なのか分からない動きで
沢淵は執拗に胸部を舐め回し乳首を噛みしだく。
手のひらに吸いつくように張りがあるアキラの陶器のように白く肌理の細かい
肌と双丘の触感に沢淵は次第に興奮の度合いを高めて行った。
「オレにも何か掴めるものが…仲間と一緒の、そういう居場所ができた、
そう思ったのに、進藤がまた台無しにしたんだ…!。」
まるで憎しみをぶつけるように三谷は激しくヒカルを突き上げ続けていた。
ヒカルは唇を結んで容赦なく揺さぶられる痛みに耐えていた。
「…甘えるのもいい加減にしろよ…」
ヒカルは哀れむように三谷の目を見据えた。
「そうやって、誰かが何かを与えてくれるまで待っているつもりかよ」
三谷の動きが一瞬止まった。
「三谷、お前は、面白い打ち手だ思う。元々かなりのセンスがあって、
クセのある大人たちの間で相当対局をこなして来ただけあるって…。」
「…黙れよ…」
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「…それだけに惜しいよ。それなりに基本からきちんと指導を受けていれば
プロの世界に入ることだって…」
「黙れって言っているだろう!」
再びえぐられるように激しくされてヒカルは表情を歪め、脂汗を流す。
三谷はヒカルのペニスを掴んでそこにも激しく刺激を与えだす。
「ううっ…ぐっ…!」
快感には程遠い激しさにヒカルは身をよじる。
そうされながらもヒカルは自分よりも三谷の方が痛みに耐えているように
思えて仕方がなかった。
「…三谷、お前の居るべき場所は、こんなところじゃない…」
「貴様に何が分かるって言うんだよ!!」
ヒカルに苦痛を与えていると分かっていながら、三谷は動く事を
止められなかった。
…オレは、何をこんなに腹を立てているんだ…?
今まで誰かに対して腹を立てるなんてなかった。他人には何も期待せず、
その空白を金で買える物で埋めていた。でも、自分が何を本当に
欲しがっているのか、それすら分からなかった。
ヒカルのお陰でそれがようやく分かりかけた。
だが自分を変えてくれたはずのそのヒカルが、あれだけ望んでようやく手に
入れたはずのものをあっさり手放した。その事で自分の気持ちが踏みにじ
られたような気がした。三谷にはそう思えた。だから許せなかった。
だがもうそれらの事も三谷にとってはどうでもいい事だった。
…どうでもいい事のはずだった。
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ヒカルが目の前から去ったあと、再び虚無の中で、三谷は碁を打つことに
なった。低額ではあったが賭碁に再び手を染めた。
そんな時、沢淵と出会った。
「君には才能がある。」
そう言われて沢淵から囲碁の特訓を受けた。それによって負ける事が
ほとんどなくなった。面白いように金が手に入った。
その頃に多く金を賭ける代わりに体を提供するよう提案された。
もちろん最初は断った。
「大丈夫。君は十分強い。これはゲームだ。負けるのが嫌だったら
もっと強くなれ。」
今までとは桁が違う賭け金に心が動いた。スリルを感じた。
胸の奥に空いた部分を埋めてくれるような気がした。
沢淵の店で「仕事」を始め、乱暴な客から身を守るという約束で
得た金のいくらかを納める事に同意した。
実力もないくせに三谷の体に興味を持った大人達から大金を奪う度に
「ざまあみろ」と思った。
だがある日手強い奴が来た。後で、元プロ棋士と分かった。
勝負に負け、ホテルに連れて行かれていざとなった時、三谷は怖く
なって逃げた。
その元プロ棋士が激怒して沢淵の店が賠償金を支払わされた。
「悪いが、落とし前はつけてもらわないといけないなあ。」
その時初めてあのマンションに連れて行かれた。
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