初めての体験 Asid 43
(43)
でも、チームメイトになるわけだし、一応挨拶くらいしておくか。ボクもコレくらいの
分別は持ち合わせているのだ。
「社君…おめでとう…」
進藤に負けず劣らずニッコリ笑って、お祝いの言葉を述べた。
「…!?あ…おおきに…」
何だ?ボクを見て、社は明らかに動揺した。
「なあ、塔矢。社ってすげー強いと思わネエ?」
進藤が興奮したように言う。
「うん。本当に。昨日の対局もすごかったけど、今日は落ちついた堅い一局だったね。」
ボクの心のこもっていない賞賛の言葉に、進藤は、何度も頷いて「強い」を連呼した。
無邪気にライバルを誉める進藤は、とても可愛くて微笑ましい。だが、社をボクの目の前で
誉めるのは止めた方がいい。キミが誉めれば誉めるほど、怒りの矛先は彼に向けられるのだから…。
まあ、放っておいても、社が進藤に接する機会は北斗杯までないだろう…が、睡眠不足も手伝って、
今日のボクは、些か機嫌が悪い。だから、場合によっては、彼が北斗杯に出られないほどの
ダメージを与えることになるかもしれない。
ふと、気がつくと、社が、ボクと進藤を少し寂し気に見ていた。どうして、そんな目で
見るんだ?何故か、罪悪感が湧き起こる。ボクらしくもない…。
なるほど、社はどうやらボクと進藤の関係に気づいているらしい。ちょっと、可哀想な気がする。あくまで、気がするだけだが…。ボクは、進藤と違ってライバルには優しくない。
優しくしたい相手は、進藤だけなのだ。(あと、碁会所の客。ただしこちらは営業用。)
|