失着点・展界編 43
(43)
精一杯のヒカルの抗議に対して突き放すような緒方の視線は変わらなかった。
が、緒方はカップをカウンターに置き、進藤に近付いて肩に手を
置こうとしてきた。
「…悪かった、言い過ぎた。」
バシッとヒカルはその手を払い除けた。
「オレに触るな!!突き放すくらいなら…どうして…」
「…家に帰るんだ。進藤。」
払い除けられた手でもう一度緒方はヒカルの肩を掴もうとした。ヒカルは
両手で再度振払おうとする。
「…なんで声をかけるんだよ…!!」
そのヒカルの両腕ごと、今度は緒方の両腕がヒカルの上半身を包み込むように
抱き締めて来た。
「…離せよ!!」
体を振って逃れようとした。だが玄関脇の壁際で大きくは動けなかった。
緒方に強く抱き締められ、ヒカルは暴れるのを止めた。
「…けて、…助けて…よ…、緒方せんせ…」
涙混じりになったヒカルの声は、そこで途切れた。
唇が塞がれたからだった。
玄関脇の壁際で緒方は身を屈め、腕をヒカルの背中まわし手のひらで後頭部を
抱いてヒカルの唇に自分の唇を重ねていた。
ヒカルは最初ただ驚いたように目を見開いていた。だが、すぐに目を閉じ、
記憶の中にあるものと混ぜ合せるようにしてその感触に浸った。
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