金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 43 - 44


(43)
 最初は茫然とヒカルを見ていたが、我に返って「待って、ボクがやる!」と、ヒカルの手首を
掴んだ。せっかくの初めての夜なのだから、自分で全てやりたい。
 ヒカルがじっと視線を合わせてきた。何かとんでもなく恥ずかしいことを言ってしまったようで、
アキラは俯いた。
 ヒカルは黙って上着の脇についているファスナーにかけていた手を離し、バンザイをするように
両手をあげてアキラに向き直った。どこか心細げで、頼りなげな表情。もしかして、さっきの
強気な態度は不安な気持ちの裏返しかもしれない。
 震える手でゆっくりとファスナーを引き上げていくと、ヒカルの白い肌が少しずつ露わになっていく。
アキラの手の動きに合わせて、ヒカルは身体を前に倒した。そのままセーラー服を引っ張ると、
すぽんとヒカルの身体がそこから抜けた。
 上半身裸でペタンと布団に座っているヒカルは、普段以上に幼く見えた。
「バーカ…ジロジロ見るな。」
ヒカルはアキラの視線から身体を隠そうと、後ろを向いた。その背中は白くて、滑らかで
唇を押しつけたい衝動に駆られた。
 「進藤…スカートも…」
上擦った声で促すと、ヒカルは怖ず怖ずと振り返り、膝立ちになった。


(44)
 アキラはヒカルの細い腰に引っかかっているスカートのホックを外し、ファスナーに手をかけた。
ジーッ―――ファスナーをおろす音。それに合わせて心臓がバクバクと音を立てて、アキラの
頭の中に響く。緊張して手が震えて、最後までファスナーをおろしきったときアキラは安堵の
息さえ吐いた。
 アキラがそこから手を離すと同時に、ストンとスカートが落ちた。ヒカルは今や下着一枚の
あられもない姿で…ドキドキしながら視線を下げて、アキラは「あれ?」と目を瞬かせた。
 身体が震える。堪えようとしても堪えられない。耐えきれずにとうとう吹き出した。
「何だよ!笑うな!」
「だって…キミ…そのパンツ…」
アキラは息を止めて、こみ上げる笑いを何とか止めようとした。
「こうしないとスカートからはみ出しちゃうんだから、しょうがねえだろ!」
 ヒカルはトランクスの裾を折り曲げて、安全ピンで留めていたのだ。
「…でも…アハハ…ああ…おかしい…」
「もう…バカ!笑うなったら!」
 緊張も何もかも吹き飛んでしまった。さっきまですごく厳かな儀式を執り行っていたような
気がしていたのに…身体の力が一瞬で抜けた。
「もう知らねえ!オマエとはしねえ…やめる!」
と、手近にあった枕を投げつけられた。
「痛…!ゴメン…ゴメンってば…!」
「うるさい…バカ!」
すっかりへそを曲げてしまったヒカルをギュッと抱きしめた。
「好きだよ…ボク…キミのことがすごく好きだ…」
「じゃあ、もう笑うなよ?」
ヒカルはアキラの首に腕をまわした。間近にある彼のふくれっ面。アキラはにっこり笑うと、
返事の代わりにそのふくれた頬にキスをした。



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