交際 43 - 44


(43)
 「おはよう、進藤」
洗面所で顔を洗うヒカルに声をかけると、彼は肩をビクリと震わせた。そして、恐る恐る
(少なくともアキラの目にはそう映った)後ろを振り返る。
「お…はよ…」
大きな瞳が不安げに揺らめいていた。
「…?どうかした?気分でも悪いのか?」
アキラがヒカルの額に触れようと、手を伸ばした。途端にヒカルが身を竦ませた。
「進藤?」
あまりの怯えように、触れかけた手を途中で止めた。
「………塔矢…オレ……」
ヒカルは何かを言いかけ、だが、すぐにキュッと唇を結んで黙り込んでしまった。
「進藤?」
先を促した。しかし、ヒカルは「なんでもない」と、一言残してそこを出て行ってしまった。


(44)
 ヒカルと入れ替わるように社が来た。彼は、自分の前をすり抜けていくヒカルの後ろ姿が
廊下の向こうに消えるまで見送っていた。
 遠ざかる軽い足音が障子を閉める音でかき消されると、社はアキラに向き直り、洗濯機を貸して欲しいと
ぶっきらぼうに頼んだ。
「………いいけど…」
了承した物の、どうして今、そんなことを社が言うのか不思議だった。今日、これから、
北斗杯のためにホテルに向かうのだ。汚れ物を洗うにしても、それを乾かす余裕などない。
「シーツ…やっぱ、洗ろとかんと…」
「それなら、まとめてクリーニングに出すから、放っておいてかまわないよ…」
社は挑戦的な視線をアキラに向けると、聞き捨てならないことを口にした。
「いくらオレでも、汚してしもたシーツを他人に洗ろて貰うほど、神経太ないからな…」
どういうこと………?
 真意をはかりかねて、アキラは社を訝しげに睨んだ。その視線を真正面から受け止めて、
社もアキラを睨み返した。沈黙が二人の会話だとでも言うように……。

 「………!?まさか………!」
アキラは社に躍りかかった。自分より僅かに背の高いその胸ぐらを強く掴み上げる。
「お前…お前なんか…信用するんじゃなかった……!」
ギリギリと音がするほど、唇を噛みしめた。



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