初めての体験 Asid 43 - 44
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でも、チームメイトになるわけだし、一応挨拶くらいしておくか。ボクもコレくらいの
分別は持ち合わせているのだ。
「社君…おめでとう…」
進藤に負けず劣らずニッコリ笑って、お祝いの言葉を述べた。
「…!?あ…おおきに…」
何だ?ボクを見て、社は明らかに動揺した。
「なあ、塔矢。社ってすげー強いと思わネエ?」
進藤が興奮したように言う。
「うん。本当に。昨日の対局もすごかったけど、今日は落ちついた堅い一局だったね。」
ボクの心のこもっていない賞賛の言葉に、進藤は、何度も頷いて「強い」を連呼した。
無邪気にライバルを誉める進藤は、とても可愛くて微笑ましい。だが、社をボクの目の前で
誉めるのは止めた方がいい。キミが誉めれば誉めるほど、怒りの矛先は彼に向けられるのだから…。
まあ、放っておいても、社が進藤に接する機会は北斗杯までないだろう…が、睡眠不足も手伝って、
今日のボクは、些か機嫌が悪い。だから、場合によっては、彼が北斗杯に出られないほどの
ダメージを与えることになるかもしれない。
ふと、気がつくと、社が、ボクと進藤を少し寂し気に見ていた。どうして、そんな目で
見るんだ?何故か、罪悪感が湧き起こる。ボクらしくもない…。
なるほど、社はどうやらボクと進藤の関係に気づいているらしい。ちょっと、可哀想な気がする。あくまで、気がするだけだが…。ボクは、進藤と違ってライバルには優しくない。
優しくしたい相手は、進藤だけなのだ。(あと、碁会所の客。ただしこちらは営業用。)
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進藤が言っていたとおり、社は外見と中身が少々違うらしい。少し、彼に興味が湧いた。
進藤が笑えば、彼もうれしそうだし、進藤がボクに甘えた仕草を見せると、切なそうな
様子を見せた。意外だな…ヤリまくっているように見えるのに…。
ボクは、彼の全身を頭の天辺から、つま先までじっくりと眺めた。上背はあるし、細身ながらも
筋肉質だ。目つきは少々鋭いが、根は純情らしい。照れた笑顔が意外に可愛い。今まで、
周りにいなかったタイプだ。
……………………………ふーん
昨日進藤と出来なかったので、ボクの我慢もそろそろ限界に近い。この四ヶ月、清く正しい
生活を送ってきたとは決して言わないが、やはり昨日は期待が大きかった分、落胆も激しかった。
この際だ。彼には、ボクの欲求不満を解消するための手伝いをしてもらおう。ついでに、
しっかり、釘をさして置かねば。
しかし、腕力勝負では負けそうだ。何か策を労さなければ…。何かないかと鞄の中を探った。
手に堅いものがあたる。ああ、こんなものが入っていたのか…。最近は物騒だから、
進藤に持たせようと思って昨日持ってきていたのに、鞄に入れたまますっかり忘れていた。
鞄で隠しながら、それをじっくりと眺めた。
……………悪いね…社……コレ試させてもらうよ…
ボクは、スタンガンを握りしめた。
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