Shangri-La第2章 43 - 45
(43)
胸にかかる、久しぶりのアキラの重みに心が安らぐ。
アキラはヒカルの胸元が気になるのか、何度も撫でている。
その手から、重なった身体から、体温がじんわりと染みてきて
そのぬくもりが、身体の中にある重たい何かを消し去っていくようだ。
それと同時に、意識までもがすうっと薄らいでいく中で
アキラが、何かとんでもないことを口にした。
言葉の意味は理解できるが、その意図が分からなくて
どうしてそんな事を言うのか聞き返したいと思ったのに
その思いすら、ほの白く霞んで霧散した。
全てが揮発して消えていくその感覚が、幸せに思えた。
(44)
久しぶりのヒカルは、少し体つきが変わったように思う。
ヒカルの身体は細くて、薄い。
寄りかかる胸は、こんなにはしっかりしていなかったような―――
気になって、Tシャツの上からヒカルの胸元を何度も撫でた。
ほんの2、3ヶ月とはいえ、少し大人になったのかと嬉しくもあり、
自分の知らないところで成長している事が淋しかった。
いつも一緒にいられると思っていたけれど、そうではなかった。
自分も、ヒカルの知らないところで少し成長しているのだろうか。
ヒカルと居る時間は、とても幸せだ。
何も話さなくても、何もしなくても、
ただ抱き締めてもらえるだけで、それで十分だ。
ただ、今はこうしていられて幸せだが、次はいつか分からない。
もしかしたら、とんでもなく先なのかもしれない。
先が見えない約束は辛すぎて、もう二度としたくない。
目を閉じると、昨晩の緒方の言葉が頭を掠めた。
―――進藤の時間を、お前が買えばいいだろう?
ヒカルの時間は、一体、いくら位するんだろう?
キミと一晩過ごすためには、いくらあればいい……?
(45)
(……いや、いけない。そういう事を考えるのは…)
昨晩、緒方の口からその言葉を聞いたときは
虫酢が走るほどの嫌悪感を覚えた筈なのに、
そして、ヒカルがそんな事を言われたら
きっと同じように不快に思うだろうに
それでも、そんな考えに染まり始めている自分がいる。
そんな自分を、ヒカルが、不快感も露に見下ろす姿が浮かんで
アキラは慌てて考え事を止めようと試みた。
そういえば、ヒカルは話しかけても来なければ
お茶を飲む気配もない。
アキラの髪を弄るヒカルの手だって、いつの間にか止まっている。
ヒカルの片腕に身体を支えられ、なおかつ額の上にはヒカルの頬が
乗せられた今の状態では動くこともままならないが、
それでもなんとか様子を探ると、規則正しい呼吸音だけが聞こえる。
あまりに早く寝入ってしまったのは、疲れているからだろうか。
そっとアキラが身を捩ると、肩に置かれたヒカルの手が
音を立てて畳の上に落ち、それでもヒカルは反応しなかった。
「進藤、進藤……ここで寝ないで、進藤…」
ヒカルの反応は鈍い。
アキラは仕方なく立ち上がり、布団の用意を始めた。
「進藤、寝るなら布団で寝て…、ほら、進藤」
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