初めての体験 43 - 48


(43)
 「…桑原先生…か…」
ヒカルが小さく呟いた。
「呼んだかね?」
 ギョッとして振り返ったヒカルの目の前に、小柄な老人がイベントの主催者達と一緒に
立っていた。
「――――!」
ヒカルは悲鳴を上げたが、幸か不幸かそれは音としては伝わらなかった。口をパクパクさせて、
狼狽えるヒカルを桑原は面白そうに眺めた。
「ど…ど…して…ここに…」
ヒカルは、喘ぎながら何とかそれだけ言うことができた。
「なぁに――わしも年だから休養をかねて遊びに来たんじゃよ。このイベントにお前さんが
 来とるとは思わなかったがの――」
 ヒカルは、桑原のニヤニヤ笑いを睨み付けた。絶対にウソだと思った。この老人はヒカルが
ここに来ているのを知っていたのだ。この前みたいに、好きにされてたまるか―!
「何か用ですか?オレまだ仕事があるんですけど―」
ヒカルがつっけんどんに言った。声が僅かに震えていた。
 だが、ヒカルの精一杯の虚勢もこの老人には通用しない。
「お前さんの仕事はもう終わりじゃよ。」
「え…?」
ヒカルが、どういう事か問い質そうとしたとき、
「進藤君。桑原先生が君を食事に誘いたいと仰るんだよ。」
と、信じられない言葉が、耳に飛び込んできた。
「こんな機会は滅多にないよ。もうここはいいから、ご一緒させていただきなさい。
桑原先生のような方のお話を聞くだけでも勉強になるから、ね?」
スタッフが、まるで自分が誘われたかのように興奮してしゃべる。皆、口々にヒカルの幸運を
うらやむ言葉を紡いだ。それは、ヒカルにとっては、地獄からの託宣だったのだが…。
「ほれ、行くぞ。小僧。」
呆然と立ち尽くすヒカルの手を引っ張って、桑原は会場を後にした。


(44)
 タクシーに乗って連れて行かれたところは、あの時と同じような料亭だった。
見知らぬ土地で、しかも財布も持っていない。恐る恐る店の入り口をくぐった。
 前後を桑原と料亭の仲居達に挟まれ、逃げ出すことも出来ず、促されるままに廊下を歩く。
時折、桑原が後ろを振り返って、ヒカルを急かしたが、足がすくんで、うまく歩けない。
 通された部屋は前の時と同じような部屋だった。あの奥の間には、以前のように
床が延べられているのだろうか―――。怖い!

 カタカタと小さく震えるヒカルを見て、桑原は自分が高ぶっていくのを感じた。
「桑原先生…やめてください…オレ…」
ヒカルは泣きそうな声で訴えた。
「大丈夫じゃよ…お前さんが大人しくすれば、この前のように薬を使ったりはしないから…」
 老人の指がヒカルの項を撫で上げた。背筋に悪寒が走った。
「や…!」
ヒカルが老人を振り払って、逃げようとした。
 突然、奥の間の襖が開いた。中から男が二人飛び出して、ヒカルを押さえ付けた。
「!!…うそ…」
ヒカルは自分の目を疑った。それは、嘉威と俊彦だった。この二人が何故ここに…!

 「や…どうして…」
ヒカルは激しく首を振った。あらん限りの力を振り絞って暴れようとしたが、
両肩と両足を押さえ付ける力には敵わなかった。ゼエゼエと荒く息をつく
ヒカルのズボンに、老人が手をかけた。
「せんせい…!」
やめて――――と叫ぼうとしたが出来なかった。老人の指がヒカル自身を取り出し、
さすり上げたからだ。ヒカルは「ひっ」と小さく悲鳴を上げただけだった。


(45)
 桑原がゆっくりと手を上下にこすると、ヒカルの口から、鼻に抜けるような声が漏れた。
「はぁ…ふ…」
ヒカルの悶える様に気をよくした老人が、躊躇いもなくそれを口に含んだ。
「あぁ―や…やだ…」
ジュルジュルとすすり上げる音が部屋中に響いた。ヒカルは羞恥に喘いだ。
感じたくはないのに、快感がヒカルの体から力を奪っていく。それと同時に、
ヒカルの体を押さえる腕の力も、徐々に弛んでいった。
「やめて……!」
股間に神経が集中していたヒカルの体を、別の手が這い始めた。その手がヒカルの上着を
捲り上げ、乳首を嬲り始めた。
「あぁん…んん…やだ…」
指の腹で突起をつぶしたり、摘んだり、その度にヒカルの体がビクビクと跳ねる。
いつの間にか、ズボンも下着も取り払われていた。脇腹や内腿に手が這い、舌や指が
両方の乳首を弄んだ。ヒカルの体を好き勝手に弄る三人の手と舌に、ヒカルは翻弄された。
「…んあぁ…はぁん…あん…あん…ぁあ……」
ヒカルの唇からひっきりなしに嬌声が漏れる。与えられる快感に対抗する気力はもうなかった。
 桑原が顎をしゃくった。男達は小さく頷くと、ヒカルの腰の下に片腕を通した。そして、
もう片方の腕で、両側からヒカルの膝をすくい上げた。ヒカルは男二人に支えられ、
おむつを換えるように尻を高く上げられた。あまりにも恥ずかしいその格好に、ヒカルの体が
朱に染まる。すぐ側で、ごくりと唾を呑み込む音が聞こえた。

 「あ…は…あぅん…」
「薬がなくても、いいようじゃな…」
桑原が指でヒカルの後ろを嬲りながら、ヒカルの耳元で呟いた。
桑原の笑いを含んだその声にヒカルは泣きたくなった。涙に濡れた瞳で、ヒカルは
嘉威と俊彦を見つめた。『どうして―――?』と問いかける。
「ごめんよ…オレ達もおかしくなっちゃったんだよ…」
「さ…さいしょ…か…ら…?」
グルだったの―――?ハァハァと喘ぎながらヒカルは訊ねた。


(46)
 「―――!あぁ―――――!!」
その時、桑原がヒカルの中に強引に押し入ってきた。二人の返事が肯定だったのか、
否定だったのかは、ヒカルにはわからなかった。
「うぅ…あ…あぁ…」
桑原に乱暴に突かれ、ヒカルは体を仰け反らせた。
「痛…い…やめて…せん…せ…あぁっ」
桑原は、体重をかけて完全に自身を埋没させると、ヒカルをゆっくりと突き上げ始めた。
 深く、浅く、緩急つけて自在にヒカルを責める。
「ああん…ああ……いい…ふぅん…いい…せん…せ…」
桑原の老練な技に、体は快感に熔け、ヒカルの声が次第に甘くなる。

 ヒカルの両側で体を支えていた男達が、それぞれヒカルの手を取った。
ヒカルの手に己の堅く猛ったものを握らせ、その上から自分の手を添え上下に激しく擦った。
 ヒカルの嬌声と男達の荒い息づかい、体から滲み出る汗や体液の匂いが部屋の中の空気を濃厚にする。
心臓の音が頭の中で響いた。

「あぁ―――――――っ」
ヒカルが一際高く悲鳴を上げた。体がビクビクと痙攣を起こした。
 ヒカルは己の放った精液を自分の胸と腹に受けた。そのヒカルより一瞬遅れて、
嘉威と俊彦、そして、桑原がヒカルの体の内側と外側の両方を汚した。


(47)
 「あぁ…はぁ…はぁ…あぅ…!」 
再び、桑原がヒカルの中で動き始めたが、もうヒカルにはどうでもよかった。
男達の手が、ヒカルにかかった精液をその胸や腹に塗りこむように体中をさすった。
「ああ…やだ…や…」
「かわいい…かわいいよ…ヒカルタン……」
二人の譫言のような呟きが、ぼんやりとしたヒカルの頭の中に届いた。





 翌日、痛む腰をさすりながら、ヒカルは仕事をこなしていた。昨日と同じく指導碁だ。
最初ヒカルは警戒していたが、幸いなことに、桑原達は会場には現れなかった。
どうやら、満足したらしい。『あんだけ、やれば当然か…ジジイのくせにタフだよな…』


(48)

 「進藤!」
突然、呼びかけられた。よく知ったその声にヒカルの表情がパッと輝く。アキラであった。
「塔矢…!どうして…?」
「どうしてるかと思って、様子を見に来たんだ…。迷惑だった?」
ヒカルは思い切り首を振った。
「すっげえ嬉しい!おまえと一緒だったらってずっと思ってたから…」
ヒカルが満面の笑みを浮かべて、アキラに答える。それがあまりにも可愛くて、アキラは
正面から見ることが出来ず、顔を赤らめて、視線を落とした。
 「あれ…?進藤、腰どうかしたの?」
ヒカルの手が腰をさすっているのが目に入った。
「あ…これ…?昨日、桑原先生に指導碁のつきあいさせられてさ…もう、何時間もずっと
 …腰が痛くなっちゃって…」
「桑原先生…来てるの?」
「休養だってさ……あんな元気な爺さんに、そんなもん必要ねェよ!」
ヒカルが珍しく不機嫌そうに返事をする。アキラは、よほど大変な目にあったんだなと
同情し、ヒカルの頭を撫でた。
「でも、もういいや。塔矢が来てくれたしね。」
アキラに優しく慰められて、ヒカルも機嫌を直した。鼻歌混じりで、中断していた仕事を再開する。
 アキラは邪魔にならないように、ヒカルの脇に立った。ヒカルがチラッとアキラに
視線を投げて、はにかむように笑った。
 アキラはヒカルの笑顔に、ガッツポーズをした。もちろん、心の中でだが…。
そして、ヒカルも、心の中で手帳の注意事項を書き足した。

 桑原本因坊……その二 ろうかいな作戦に(以下略)
            伏兵にも要注意だ!ゴルァ(゜Д゜)
 

<終>



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